短編

□信じられない恋の始まり
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晴れて銀魂高校に入学し

Z組に属された私の隣の席になったのは目付きの怖い土方君だった




彼にはすでに仲の良い友達がいた

近藤君と沖田君。それから山崎君を何故かパシってる



このクラスの人達は他のクラスと違って最初から皆仲良しだった

どうして?と新八君に聞いてみたら、大人の事情だよって言われた

…よくわからない。




それでも、1人だけそんなクラスに飛び込んできた私を皆嫌な顔1つせずに迎え入れてくれた

というか入学初日から奴のパシリになってしまった事に同情の眼差しを向けられた


どんな理由であれ、私は友達を作るのが下手な部類だから助かった






入学してまだ数日しかたっていないけど授業は少しづつ始まっていた




『あ、教科書忘れちゃった』

「あら大変」

「アタシの貸してあげるヨ!」

『それじゃあ神楽ちゃんが教科書見れないでしょ?』

「最初から見る気ないネ!」

『まじっすか』





神楽ちゃんは早弁のたこウインナーを頬張りながらニカッと笑った

お妙ちゃんは隣のクラスに借りに行こうと言ってくれて、だけど立ち上がった瞬間に無情にもチャイムが鳴ってしまった






『うーん……まぁ、良いよ。ありがとうお妙ちゃん』

「大丈夫なの?」

『平気。入学したばっかだし、先生もそんな怒らないと思う』




ただ、優等生を信条にしていた私のプライドは許さなかったけど

こればっかりは仕方ない。
だって自業自得なんだから…






ガラガラと教師がドアを空けて、バラバラと散っていた皆が自分の席に戻っていく




(入学したばっかりだからって言うより…次の授業は確か国語…奴の教科だからあまり気にならないんだ…)






ふぅっと息を吐いて入ってきた銀八を目で追った

相変わらずのやる気の無さと、教師らしからぬ風貌。




きっと今日も授業らしい授業はやらないだろう…

そう思ったのに




「はーい、資料の78ページ開けー」

「え!?先生どうしたんですか!?」

「何が」




先生の先生らしい授業の始め方に皆が驚いて、新八君が気持ちを代弁してくれた

入学以来、そんな事は初めてだった





私も予想外の事に驚いて、頬杖していたにも関わらず、間抜けな表情になってしまった




何故その資料を忘れた今日に限って…

いや、正確にはちゃんと持ってきてたんだ

鞄に入れた筈の資料は忽然と姿を消していた



朝は寝ぼけていたし、思い違いで実は家に忘れてきたんだとさっきは思った




だけど違うらしい





「は?何言ってんの新八君。俺はいつだって真面目だぞ?」

『あー!!!』




私は立ち上がって教師に向かって指を指した

クラス中から視線をあびても、私の目は先生に釘付けだ




「なに?先生に向かって指さしちゃダメだぞー」



奴はニヤニヤと笑みを刻んで、資料集でその口元を隠した


先生に釘付けというより、私はその資料集に釘付けだ





『そ、それ…!!!』


先生の手にある資料集。

裏表紙には間違いなく私の名前が書かれている




私をパシリに使う奴は、私の困り果てる表情が好きだと以前言っていた

何てドSなんだと顔をこれでもかと歪めたのを覚えてる




口をパクパクと動かし、余りの衝撃に立ち上がったままでいる私

先生は可笑しそうにお腹を押さえながら資料集でその表情を上手く隠してる




そこまでするか…普通…






「ん?何お前、忘れたのかよ」

『っ……え、あ、なに?土方君』

「資料集。借りて来なかったのか?」

『う、うん…借りに行こうとしたらチャイム鳴っちゃって…』

「しょうがねぇな…俺の見せてやるから、机動かせ」





ガタガタと土方君は机を私の方に動かしてくれる

私も条件反射で慌てて机を寄せた


2人の間に置かれた一冊の資料



いつもより近い距離に自然と胸が高鳴った




『ご、ごめんね?』

「別に」

『今度、何かお礼するから…』

「んなの良いよ。例言われる様な事したつもりねぇし」





本当に同じ歳なのだろうか

目付きの悪さを差し引いても御釣りがくるくらい、彼は紳士だった



入学してから先生に振り回されっぱなしの私にとって、それはオアシス。




感動の意を表して両手を合わせ、彼に向けて念を送ってみた

神を拝む様な表情で両手を合わせる私に、土方君はとてもドン引きしていた

土方君の中で私の株は急降下したに違いない







そんな私達を子供の様に囃し立てるクラスメイトが数名いた


主に神楽ちゃんと沖田君と近藤君とさっちゃんだった。




その様な反応は特に気にしなかった

土方君は少し頬を赤らめていたけど、こういうのは相手にしないのが一番なんだ。





だけどそれ等全てに一番反応したのは予想外にも先生だった




バシバシッ!

『痛い!』「いって!」



資料集をグルリと丸めて、私と土方君の頭を叩いた



「なーに青春ごっこしてんのかなー?」




叩かれた頭を押さえながら見上げると、顔は笑っているのにそのオーラが怖かった




「色恋沙汰なんざテメェ等には百万光年早ぇんだよガキ共!俺の気持ちを思い知れ!」


あぁそうか、先生は俺達の知る限り、一切色恋沙汰がないもんな…




誰かがそんな事を口にしたのをきっかけにクラスに笑いが溢れた





「ほら!忘れたんなら俺の使いなさい!だから机離せ!」


一番強く叩かれた土方君を心配していると先生は私達の机を元に戻してその資料集を私に突き出した







『え…でも、これ…』

「俺は先生だからな。こんな事もあろうかと、資料集2冊持ってっから」

『いや、そうじゃなくて先生…これ、私のだよね…?』

「………」






先生は無言で教壇に戻っていった



丸められてその名残がある資料集に視線を落として、一体何がしたいんだと溜め息をついた






『ごめんね土方君』

「…全然」



全然、痛くない訳がないんだろう


彼は頭を押さえたまま中々動かない

角が当たったようだ






黒板に視線を戻すと先生と一瞬目があった

だけど直ぐに逸らされてしまった






…先生は一体何がしたいんだろうか


私を苛めるのが楽しいんだろうけどさ…









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