ヘヴンな駄文

□ユニークな人(七×啓)
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俺の恋人は他の人よりも掴みどころがない。
いつも笑顔を絶やさない。けどその心の奥はなかなか見せてくれない。
自分の全ては幼なじみのものだと、普通に言ってのけてしまう人。

…ただ、それは俺に出会う前の事で、今はもちろん違いますよ?と言ってくれてるけど。

付き合い始めて、心の内を見せてくれるようになったと思うし、自分でも少しは分かるようになってきた…と思う。
思うんだけど…最近、七条さんが何を考えてるのか分からない。

「ふふっ…伊藤くんは本当に可愛らしいですね」

って、事あるごとに俺の事を可愛いと言ってくるんだ。何もないのに、いきなり、だ。

今だって、久しぶりに学園島を出て、美味しいと噂になっているパフェを食べてるだけだ。
何が可愛いのかなんてちっとも分からない。
たぶん…それを聞いた俺が焦って慌てふためく様子を見て楽しんでるだろうけど。

「七条さん…もうっ! こんな所で…揶揄わないで下さいよ」

と、何度言ったか分からない言葉を繰り返し訴えてみるけど、七条さんもその度に同じ答えを繰り返すだけで。

「揶揄ってなんかいませんよ。本当の事を言っただけですから」

にっこりと、悪びれる事なく言われちゃうと…それ以上、何も言えなくなっちゃうじゃないか。
俺だって男なんだから、可愛いって言われたって…嬉しいとは言えないけど、何か複雑だ…。

「……七条さんは」
「はい。何でしょう?」

呻くような俺の呟きに、七条さんは即座に返事を返してくる。
もちろん笑みは崩さぬまま。

「俺の事、どういう風に見てるんですか…?」

前々から思ってたんだ。
俺の事、本当は恋人じゃなくて、子犬とかハムスターみたいな愛玩動物とでも思ってるんじゃないか…って。


七条さんは変わらない笑顔を浮かべていた。
けど、どこか寂しそうな表情に見えたのは気のせいかな…。

「どういう風…というのは、つまり。僕が伊藤くんの事をどう思ってるのかが知りたい、と。そういう事ですか?」
「…はい。あの……まぁ…」

まさにその通りだったけど、そうですなんて言えなくて言葉を濁すと、今度はどこか楽しそうな顔をした七条さんと目が合った。
吸い込まれそうな紫色の瞳を呆けたように見つめていると、いつの間にか七条さんに手を掴まれていて。

「う、わ…っ?!」

七条さんが力を篭めて自分の方へ引き寄せると、テーブルを越えて一気に二人の距離が縮まった。
鼻先が触れ合うくらいに近付いて、顔が一瞬で熱を持つ。

「しっ…七条さんっ、こんな所で…っ」

ここは学園の外で、開放的なオープンテラスだけど、人の目があるカフェの中で。
思わず目を瞑ってしまった俺の耳元に七条さんが口唇を寄せる。
くすっと小さく笑われて、漏れた吐息がくすぐったいと思ったけど、恥ずかしくて動けなくて。

思考も身体の動きも停止してしまった俺を七条さんの言葉が呼び戻すように囁かれる。

「僕は…君の事を、とてもユニークな人だと思っています」
「…ユニーク……ですか…?」

それって、どういう意味なんだろう。面白いって事なんだろうか…?

首を傾げると、ふふっ…と、また笑われる。

「はい、ユニークです」

でも、これ以上は言わないと、七条さんの顔は物語っていて――。



学園島に戻った俺達は、一緒に夕飯を取る約束をして一旦それぞれの部屋に戻った。
本当はそのまま一緒にいたかったんだけど…調べたい事があったから。

「えーっと…辞書、辞書…と」

国語辞典を引っ張り出して目的のページを見つけ出すのに、時間は掛からなかった。

「あった…」

そこには、何となく自分の思った通りの言葉が書いてあって。


『独特で魅力のあるさま。珍しく他に類を見ないさま』


七条さんが言いたかったのは、前者じゃなくて後者なんだろう。
愛玩動物じゃなくて…もの珍しいヤツだって…七条さんは思ってたのか…。
七条さんの事だから、何かもっと特別な意味があるのだと勝手に思ってしまった。
勝手に期待して、勝手に落ち込んで…浅ましい自分が恥ずかしい。

「はぁ…っ」

辞書を閉じようとして、ふと次のページに続きがある事に気付いた。


――ぱらり…。


ページを捲った、その先に釘付けになる。

「これ……かもしれない…」

いや、これだといい。
例え七条さんがそうとは思っていなかったとしても――。

居ても立ってもいられなくなって、俺は部屋を飛び出した。
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