ヘヴンな駄文

□満月の夜(和×啓)
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学校からの帰り道。

俺は学生会の手伝いから、和希は理事長の仕事から、それぞれ解放されて。
すっかり陽も落ちて暗闇に包まれた道を、和希と二人で歩いていた。

「あ……和希、見て」

ふと頭上が明るくなった気がして空を仰ぐと、木々の間から金色に輝く月が見え隠れしていた。

「そういえば、今日は十五夜だったな」

今思い出したように呟いた和希の言葉を聞きながら、月を眺める。

綺麗な金色をした月は確かに真ん丸で。雲一つない暗闇をほんのりと、だけど煌々と夜空を照らしている。

「すごい……きれ…い」
「ああ、そうだな…」

風もない静かな空間で、俺も和希も無言で月を見上げていた。

「……啓太」
「ん…?」

どのくらいそうしていたのか。和希に呼ばれて顔を下げる。
と、視線の先の和希が、思った以上に近くにいて―――。

「……っん?!」

ちゅっ、と俺の口唇に和希のそれが触れて。

思わず目を瞬かせる。

「なっ……何…」

こんないつ誰が通るかも分からない往来で。キスされるとは思わなかったから。
怒る事も忘れて和希の顔を見つめてしまう。
和希は照れたように頬を掻いて。

「月を見てる啓太があまりにも可愛かったから…さ」

俺の耳元に顔を寄せて、そっと囁いた。

「…なっ!?」

あまりにも恥ずかしい事を言われた気がする。
頭がそれと認識する前に、身体が反応していた。

「なっ…な…」

かぁぁっと顔が熱くなる。

じゃあ……和希は月を見てたんじゃなくて……俺を見てたって事?

綺麗だって、同意した時のあれは……。

「………」

…やめよう。これ以上考えたら、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。

黙り込んだ俺をどう思ったのか、和希が口を開く。

「いや、初めはちゃんと月を見てたんだけど、月を見てたら何か啓太にキスしたくなって」

啓太は、そう思わないか?

「そんな事…っ!」

ある訳ない、と言おうとして……やっぱりやめた。
和希の顔が、期待に満ちたそれだったから。


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