ヘヴンな駄文
□Happy Birthday -My Sweet-(七×啓)
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「七条さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます、伊藤くん」
にっこりと嬉しそうな笑顔を見せてくれる七条さんに俺も自然に笑顔が浮かぶ。でも顔が熱い…。ひょっとしたら、赤くなってたりするかもしれない。
「あっ、七条さんが前に話してたケーキを用意したんです。一緒に食べましょう?」
目を合わせられなくて、そそくさと冷蔵庫へ向かう。と言っても、さして広くはない部屋の中。俺の動きを追うように七条さんからの視線を背中に感じて……何だか居た堪れない。
でも七条さんはきっと、そんな俺の様子も全て分かってるに違いないんだ。分かっててやるんだから、七条さんは意地悪だ。
二人で使うには少し小さい気もするローテーブルに、震えないようにケーキの箱を置く。
「じゃ、開けますよー」
そぅっと横の蓋を開き、ケーキを引っ張り出す。
「……これは」
七条さんが驚いた顔をしている。
「どう…ですか?」
こんな顔、してくれただけで頑張った甲斐があるってもんだ。と言っても、俺が作った訳じゃないんだけどね。
普通よりも大きいホールケーキの上に、どんっとクッキーで作られたプレートが乗っている。
そこには――――。
『大好きな七条さん
お誕生日おめでとうございます! ずっとずーっと一緒にいて下さいね!!』
さすがに恥ずかしかったからハートは頼めなかったけど。
でもこれが正真正銘の俺の気持ち。いつも恥ずかしくてなかなか伝えられない俺の気持ち、少しでも七条さんに伝わればイイな…なんて。
えへへ…と照れている俺の右手を、そっと取られて握られる。
「……ありがとう、伊藤くん」
その目はとても穏やかで嬉しそうで……それなのに、どことなく艶めいた色を感じて焦ってしまう。
いや、一応覚悟はしてたけどっ!
何回か身体は重ねたけど……それでも、ずっと初めてみたいに恥ずかしいんだ。
「し、七条……さ…」
「――――啓太くん」
「……っ!!」
名前で呼ぶのは、そういう時。決して嫌な訳じゃない。……けど。
「し、七条さ……」
「啓太くん」
はっきりと名前を呼ばれ、びくりと身体が震える。
「ケーキはまた明日食べましょう」
ね?と言いながら、俺の手の甲に優しく口吻ける。ドクリと心臓が跳ねる俺にお構いなく、大きなその手で俺の手を一撫でして…離された。
ケーキを箱にしまって、冷蔵庫へ持って行ってしまう。
煽って……しまったんだろうか。
自分で切り出すのが恥ずかしくて、こうなるように狙っていたと言われれば否定は出来ないのだけれど。
気に入って貰えるかは分からないけど、プレゼントはちゃんと別に用意している。
それでも、七条さんが望むのなら……。
キュッと握り締めた掌に汗が滲む。
戻って来た七条さんに膝立ちですり寄っていくと、思い切って抱き付いた。
顔が見えないように、ぎゅううっと腕に力を篭める。
「返却出来ないプレゼントがありますけど……貰って…くれますか?」
「ええ、是非」
一瞬も迷う事なく七条さんが答えてくれる。それがすごく嬉しい。
髪をそっと撫でられて、顔を上げる。今の俺は、ものすごく幸せそうな……じゃなくて、幸せな、顔をしてる。
「誕生日、おめでとうございます。大好き……臣さん」
恥ずかしいけど、大好きなその人の名前を呼んで。俺は自ら、その人の口唇に口吻けた。
これから与えられるであろう、甘美な時間に胸を震わせながら。
【おしまい】