ヘヴンな駄文
□和菓子の日(七啓?)
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「伊藤くん。はい、あーん…?」
「え? 七条さ……んぐっ?!」
七条さんに呼ばれて振り返った。
そのタイミングを狙ったかのように口に何かを押し込まれて、俺は驚いて目を瞬かせながら、目の前の顔を見上げた。
だけど七条さんはにっこりと笑みを浮かべたまま。楽しそうなのに、何も言おうとしない。
何、これ? ……どういう状況?
ここは会計室で。西園寺さんは珍しく自分から学生会に書類を取りに行っていて。でもすぐ帰って来る事は分かりきってる筈なのに。
そして……七条さんの指は未だ俺の口に押し込んだ物を摘んでいる。
コレは……一体、何なんだろう?
ちろりと舌を出して舐めてみる。何だか……甘い気がする。
「食べてはいけませんよ?」
「……ふぇ?」
間の抜けた声が漏れる。そんな俺を見て、七条さんはその笑みをますます深くした。
「伊藤くん、知っていましたか? 今日は和菓子の日なんだそうですよ?」
和菓子の日?
知らない、と答える代わりに首を振ろうとして―――でも七条さんの指を銜えた状態ではそれも出来なくて、数回瞬きを繰り返す。
「ふふっ…実は、僕も昨日知ったんですよ。せっかくそんな日があるのなら、僕も普段はあまり食べない和菓子を食べてみようかと思いまして」
それがどうしてこんな事に……っ?!
何とか喋ろうとしても、口の中の和菓子と思われるものと七条さんの指が邪魔をして喋れない。
何度飲み込んでも唾液がどんどん溢れてくる。甘い和菓子と七条さんの指……だんだん思考が霧散していく。
何とかして七条さんの手から離れようとするのに、もう片方の手がいつの間にか俺の腰に回されていて。
「ふぃちひょ…ひゃ…っ」
「それではいただきましょうか」
「ふぇ…っ?!」
「やはり苦手なものは好きなものとだったら食べられると思うんです。ですから……ね?」
ね?じゃないですよぉーっ!!
もうすぐ西園寺さんだって戻って来るのにっ!
「んゃ…んぅ―――っ!! んっ、んん……っ」
苦情も和菓子も…全てが七条さんの口唇に飲み込まれた。俺の舌も…吐息でさえも。
結局、それは西園寺さんが帰って来るまで続けられて……俺と七条さんは揃って怒られたのだった。
【おしまい】