ヘヴンな駄文

□ちょこはぴ(七×啓)
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甘い甘いチョコレートに、甘い甘いあなたへの想いを込めて。
驚いてくれますように。喜んでくれますように――。
俺のこの想い、届くといいな…。



2月14日はバレンタインデー。
女の子が男の子へ、チョコレートを贈って愛の告白をする日だなんて、誰が考えたんだろう?
好きな相手に想いを告げるいい機会なんだから、俺もあの人も男だけど使わない手はないよな。
あの人は…俺の大好きな人は甘いものがとても好きな人だから、チョコは喜んで受け取ってくれると思う。ただ、一つ問題があるとすれば―――。

「はい、伊藤くん」
「…え?」

突然目の前に差し出されたピンク色の包みに目を瞬かせる。
きれいにラッピングされたそれは…。

「え、えーと…?」

見上げた包みの向こう側からアメジスト色の瞳が俺を見ていた。

「今日はバレンタインでしょう? ですから、これを伊藤くんに。これだけで全てを伝えられるとは思っていませんが、僕の愛の一部だと思って、受け取って頂けませんか?」

にっこりと微笑まれて、ポッと頬が赤く染まる。
七条さんの愛の一部…。
よく考えると結構すごい愛の告白だと思うけど、この時の俺はそんな事に気付きもしないで、西園寺さんがまだ来てなくて良かった…なんて考えていた。
もしこの場にいたら、「だらしのない顔をしている」と、呆れられていただろうから。

「もっ、もちろんです。ありがとう…ございます、七条さん」

照れながら受け取った七条さんの愛は、ほのかに甘いチョコレートの匂いがする。
ああ、いいな。こういうのって…。
まさか自分が大切な人からチョコを貰える日が来るとは…しかもこんなにも早く来るとは、思ってもみなかった。
笑顔を返せば、それ以上に優しく微笑み返してくれる大好きな人がそこにいて。幸せを噛み締める。
だけど、不意に気付いた。

「あっ! 俺…」

自分だけ貰っておいて、俺はまだ何も渡していなかった。
いきなり渡されたのと嬉しかったのとで、すっかり忘れていた。

「大丈夫、分かっていますよ。僕は気になりませんでしたけど、伊藤くんは恥ずかしがり屋さんですもんね」

……違う。違わない…けど、違う。
くすりと笑われたのは、何かを思い出したからだろうか?
七条さんはすぐに一人だけで納得してしまうから……ちょっとだけ拗ねたくなりそうだ。

「七条さんっ!」
「何ですか、伊藤くん?」
「俺も……俺だって、ちゃんと用意してますっ!」

確かに、たくさんの女の子達に混じって本命チョコを買うのは恥ずかしくて出来なかったけど。
でもどうしても渡したかったから。だから無謀だとは思ったけど、俺は―――。

「渡せるタイミングがないかと思って……ここには持って来なかったんです」
「そう…なんですか? それはすみませんでした」

……あ、七条さん。ちょっと嬉しそう?
俺から貰えるから…なんて、自惚れすぎかな、やっぱり。甘いもの好きだから…だよね。
でも、それでもいいんだ。だって七条さんが喜んでくれてるんだから。

「あの……今、取って来ても…いいですか?」

仕事中だし、もうすぐ西園寺さんが来る頃だからマズいかな…とも思ったんだけど。
せっかく切り出せたんだから、出来るなら今のうちに渡してしまいたい。ずっとその事を考えていたんだから。

「でしたら、僕も一緒に行きましょう」
「えっ? でも…」
「取りに行って戻って来るよりも、僕が一緒に行った方が伊藤くんも楽でしょう?」
「でも西園寺さんが…」

主のいない席に視線を送る。いつも優雅に紅茶を飲んでいるその人が、今日はまだ会計室に来ていなかった。

「ああ、言い忘れていました。郁は今日はお休みなんですよ。私用で島の外に出てますから、心配は無用です。そういう事なので、僕達の今日の仕事も終わりにしちゃいましょう」

そう言って悪戯っ子のようにウインクを一つ残すと、テキパキと片付けをはじめてしまった。こうなると俺に抗う術はないから、俺も手付かずだった書類や筆記用具を片付ける事にした。
コートを着込み、マフラーを巻く頃には、七条さんの帰り支度はすっかり終わっていて、鞄と七条さんに貰ったチョコレートを手にすると、扉の前で待つ七条さんの元へ急いで向かった。

「お、お待たせしました…っ」
「いえ、全然待ってませんよ」

僕も今終わった所ですから、なんて…ちょっとデートの待ち合わせみたいだ。

「では、行きましょうか」
「はいっ!」
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