迷宮リセット

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「…動かしづらくないか?」
『はい、全然』


丁寧かつ器用に巻かれた包帯は絆創膏より指を動かしやすく感心した


『ありがとうございます、その、助けてくれたことも、運んでくれたことも…』

「いや、当然のことをしただけだ」

『後、…ごめんなさい』


包帯を巻かれている時に諸星さんの左手の甲が少し紅くなっているのが見えた

あれは間違いなく私が振り払った時にできたモノ

謝罪の意を理解していない彼の手を今度は私が取り、そこにそっと触れた


「…気にするな。あんなことがあった後だったからな」

『でもっ』


息を飲む私にそれ以上は言うなとでも言うように頭に手を置く

顔を上げると優しい表情の彼と目が合った


『っ……』



ーズルいよ…っ、そんな顔しないで

求めてしまう

何もかも投げ出してすがりたくなってしまう…



「?、どうかしたか」

『い、いえ…、お姉ちゃんに渡した袋は何かなって…』


何も言わずに見つめてくる私に不思議に思った彼が問いかけてきて、私は咄嗟に誤魔化した


「じゃがいもと人参だ」
『え…!?』


予想もしなかった言葉に動揺して後ずさってしまった


「夕食の材料だそうだ」
『…あ、あぁ…、夕食の……』


きっと私の目は点になっているだろう

決して声には出せないが、スーパーに行く諸星さんを想像出来る人はいるのだろうかと思ってしまった


「二人共、カレー出来…っ」

『!?』

リビングにやって来た明美さんに驚いて私は慌てて諸星さんから離れた


『あ、あけ…っ!、お姉ちゃん、今のは…っ』

「…もしかしてお邪魔でした?」

「いや、手当ては終わったからな」


そっち!?とツッコみたかったが我慢して二人を交互に見る


「そうですか、諸星さん本当にありがとうございます」


ニコニコとしてお礼を言う明美さんに短く返して立ち上がる諸星さん


「では私はこれで」

「あ、諸星さん、もし良かったら一緒に食べませんか?」
『え?!』


誘われた本人よりも声を上げてしまい二人に何をそんなに驚いているといった風に見られる


『い、いや…今のは、嬉しい…、意味です…よ』

「…そのわりにはカタコトだが」

『そこに食い付かないで下さい!』
「…プッ、あははっ」

叫ぶ私に吹き出して笑う明美さん

それにつられて笑う諸星さんに私は顔を膨らました


「…では、改めまして諸星さん、どうですか?」

「本当にいいのか…?」

「はい、大勢で食べた方が美味しいですから」

「そうですか、では…」


頂こうと言う諸星さんに明美さんは頬を染めてして笑った


「…そういえば、病み上がりの人にカレーというのは大丈夫なのか?」

「あっ!?、やだっ、私ったら…、食材を気にして璃緒のこと考えてなかった…」

『だ、大丈夫だよ、もう元気になったから』

「本当?、でも気分が悪くなったらすぐに言うのよ」

『…うん、ありがとうお姉ちゃん』
「……」


照れくさくなって下を向く私を見据える諸星さんに私は気付かなかった


「(この姉妹、いや二人は白か…、それとも黒に染まりかけているのか…)」


“お願いがあります…、璃緒……をーー…”


カレーを盛り付ける二人を見ながら彼は数時間前に頼まれたことを思い出しフッと笑った


「(お互いに白黒探りあっているのか…、参加するのも悪くない…、それに…)」


ーー彼女のあの脅え様

組織と何か関わりがあるはずだ…



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