迷宮リセット
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『久しぶりの外は気持ちいいなー』
空は雲一つない晴天の下で鞄と小学生の傘を持つ手とは反対の手で背伸びをしてみる
普段はインドアだけど出れない状況になると不思議と外が恋しくなるもので、今外にいることが凄く嬉しく感じる
『(とりあえず今日は学校を終えたら帝丹小学校を訪ねよう、それで会えなかったら偶然を装って米花町2丁目の辺りを歩いてみよう)』
ー確かその辺りが彼の家だったはず…
探偵の卵の彼に偶然にも再会を果たし、かつ傘を返して他人のままで別れることを無事やり遂げられるか不安だが…
彼は原作通り進めばこの世界の未来を救う少年(銀の弾丸)
組織の存在を勘づかれないように接しなければ…
『よし、痛…っ!、……自滅した…』
気合いを入れて力強く前へと進むとやっぱりまだ少し痛くて横っ腹を擦る
『(体育はないからいいけど、この調子でいけるのかな…)』
我ながら先が思いやられる想いで私は学校へと歩んだ…
ーー
ガラガラ…
数日ぶりの教室はいつもと何も変わらなかった
休んでいた人の登場に皆が視線を向けてくる中、私はススッと自分の席に着いた
『(さて、休んでた分の授業、どうやって取り戻そう…)』
二度目の学生生活は物静かに過ごしていて友達と言える人がいない
『(やっぱり無理にでも登校すべきだったかな…)』
ー携帯騒動が無事(とは少し言い難いが)解決した後、明美さんには風邪薬と伝えて諸星さんが痛み止めの薬を買って来てくれた
“これがあれば明日から学校に行けますね”
“いや、数日は安静にしていろ”
“どうしてですか?”
“鏡を見たなら解るだろう、制服で痣を全て隠せると思うか”
“あ…!?、そう、だった…”
中学校の制服はセーラー服
首元が隠しきれないことに気付いて落胆する私に諸星さんは続ける
“それに無茶をして痛めたら、流石に医者無しでは対処出来まい”
“う…っ”
“それでもいいなら止めないが、どうする?”
“っ!、解りました!、安静にしてますっ!”
私がどこまで馬鹿なのか試すような言い方に、私は怒りをぶつけるように叫んだ
“フッ、そうか”
“っ〜…(ドS鬼畜野郎め…)”
悪戯な笑みを浮かべる諸星さんに怒りが治まらず、そっぽを向いて心の中で悪態を吐いた
“璃緒…”
“はい…っ”
名前を呼ばれムスッとしたまま顔を合わせると真剣な表情の諸星さん
“昨日、俺が言った言葉を覚えているか”
“昨日…っ!”
ーもう、二度とそんな顔させやしない…
彼の言う言葉を思い出した私は頷いた
“あの言葉に偽りはない、一人で抱え込むな。どんなことでもいい、何かあったらすぐに俺を頼れ”
“……っ”
瞳を揺るがさず偽りのない諸星さんの言葉を信じたい気持ちとは裏腹に、私の思考は疑いで埋め尽くされ、喉を締め付けられる感覚に陥り返事が出来なかった
“(何も知らずに素直に頷けたら、どんなに楽か…)”
ー彼は宮野志保に近付く為の道具に言っているに過ぎない
本当の私を見ていない
…いや、それでいいのかもしれない
だって私は本当の私を隠しているのだから…
「ー…ん、…のさん、宮野さん!」
『!?、え、何…?』
未だ慣れない苗字で呼ばれてハッとするとクラスの女子が私の席の右側に立っていた
「私のノートよかったら使って」
『え、いいの?』
「もちろん、解らないことがあったら言ってね。力になるから」
『ありがとう…』
ノートを受け取った私はボールペンで書かれた文字を見て、何度も覚える機会があったはずの彼女の顔と名前を漸く一致させて覚えた…
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