番外編・捧げ物

□妖怪パロディ2
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「くーらしーなちゃん!!」


翌朝、さっそく噂を聞きつけたのかいつも以上に勢いよく中島が飛びついて来た。中島と俺は同じ従者仲間であるが主に対するスタンスが全く違うので話が合うということは無かったがそれでも同じ立場を共有する間柄として気安い関係だった。

まぁ中島は誰にでも気安いのであまり特別というワケではないけれど……。


「面白いモノ手に入れたんだって?」


肩を組まれ耳許で囁かれると少しばかりくすぐったい。


「もうそんな噂になってんのか……」

「まぁね」


流石、この狭い世界でこんな面白おかしく物珍しいモノがあるって情報は廻るのが早い。
まぁ予想の範囲内なんだけれど。

まるで湖面に投げられた石のように波紋が伝わっていく。


「外来の製品だから少し怖いよなぁ……副作用とか」

「ちょ、そこが問題じゃないって。惚れ薬なんて副作用どころか本来の作用がまずいんでしょ」


ヘラリと笑えば苦笑いが返される。
わざわざ危険性を呈してくれるあたり中島は人が良い。そんなこと言ったら渡さなくなるかもしれないのに。
それとも、もともと貰う気がないのか……。


「主にもそう言われたよ。どうせ1日くらいの効き目しかないのにな」

「1日あれば十分だよ」


それはそれは……。
ナニをするのに十分な時間なのか。まぁ敢えて聞かないけれど。


「倉科ちゃんはなんでそんなに危機感無いのかなぁ。吸血鬼の時もそうだったけどさ、皆心配してんだよ?」

「ご忠告ありがと。でもそんな皆がいう程の危険な目にもあって無いからな」

「倉科ちゃん強いもんねー。でも今回は強さは関係無いよ。骨抜きにされちゃったら抵抗できないでしょ」


教室に向かって軽い足取りで歩きながらだが中島の表情は大真面目だった。
しかし……。


「で、何で俺が薬使われる前提なんだ? 確かに今の所有者は俺だし無理矢理奪われるっていう危険はあるかもしれないが俺に使いたいって奴はいないんじゃないか?」

「ホント危機感無いなぁ……まぁ咲矢先輩とか東藤先生辺りじゃなきゃ君から小瓶を奪うなんて芸当できないと思うけど」


そう、そこが問題だ。
こうして暗に募集してみたがモノがモノだけに素直に名乗り出ることは無いだろう。

さて、どうウッカリ小瓶を奪われようか。


「まぁ確かに俺の手にあるうちは安全だろうなぁ……。咲矢先輩や島咲先輩、義直様には呑ませるこは困難かもしれないけれど、うちの主や結様は簡単に人からもらったモノとか食べてしまいそうだし」

「……ちなみにその人選は?」

「容姿が良く尚且つ名家の当主」


簡単に答えれば中島はまた呆れ返った表情をした。そんな変な事を言ったつもりは無いのだけれど。


「……倉科ちゃんって時々俗物的だよね。フツ―惚れ薬って好きな子に使わない?」

「俗物……って、酷いな。衆道を否定するつもりは無いけれど今此処には男しかいないし、此処で恋愛を1日だけ成就させても意味がないだろう? もしそのまま付き合うことになったって大人になればそれぞれの道を行かなきゃならないんだし」

「どうせ違う道を歩むなら1日だけでも思い出に、って考えもあるんじゃない?」

「そんなものなのか……? よく分からないなぁ」


そういえば主もそんな事を言っていたような気がする。
もしかしたら他人を好きにならなければ分から無い感情なのかもしれないな。


「それよりも此処で惚れ薬だけ奪っといて卒業した後にここぞという時に使った方が使えそうだな……まぁ下っ端座敷童には縁遠い話だけれど、そんな謀略めいた話」

「……やっぱ俗物的だよ。倉科ちゃん」


呆れた、と苦笑いで肩を叩かれたがまぁソレが俺の考えだから仕方がない。


「まぁつまり俺が持っているうちは皆安全なんだよな。まさか咲矢先輩や先生が惚れ薬を欲しがるとも思えないし……」

「……ちなみにその理由も聞いてもいい?」

「家柄、容姿、強さ全て揃ったあの人たちはわざわざ惚れ薬なんて使う必要はないだろ。一夜限りの思い出なら押さえ付けて好き放題した後家に圧力かけちゃえば済むし、まぁあの容姿で熱心に口説いたほうが早いだろうけど」

「倉科ちゃんコワーイ」


俺の言葉に苦笑い所では無く本気で引いた様子で中島は2、3歩後退する。
まぁ、自分で言っといてとんでもない発想だとは思うけれど。

しかし、そんな風に落とした方がまだ惚れ薬なんてよく分からないものを使うよりもよっぽどマシなんじゃないか、と思うんだよな……。













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