番外編・捧げ物

□妖怪パロディ2
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さて、ジンがイタリアに帰ってから数週間が経ち、俺ももとの何気ない日常に戻り、主のお世話や教育をしたり、先輩に絡まれたりしている。

さて、そんなある日、俺は先生に呼び出しをくらった。

特に何かした覚えはないけれどもしかしたら何か仕事的なものを押し付けられるかもしれない……。それは少し面倒臭いなぁ、と思うがこの間やらかしたので相当な無理難題出ない限り文句を言わずに受け入れよう。

そう考えていたら先生の部屋まで来たので3回ノックをする。すると中からくぐもった声が聞こえた。よく聞こえないけれどまぁ入れとでも言われたのだろうと予想して室内に入る。
予想通り先生はソファに座ってくつろいでいた。


「お、来たか」

「失礼しまーす」

「まぁ座れ」


ポンポンと自分の隣を叩いたのでこちらも遠慮なくソファに座る。


「で、何の用事ですか?」

「……これだ」


せっかくなのでコソコソ話をするように身を縮め、上目で先生を見れば先生もニヤリと笑って懐から何か液体の入った小瓶を出した。


「……何ですか、コレ」

「あの吸血鬼が去った後のお前の手に握らされていたものだ。悪いな調べさせてもらったから量が少し減っているが、お前への礼みたいなもんだろう。どんなものかはこの紙に書いた。お前のものだ。好きに使え」


2つ折りにされた紙と小瓶をテーブルの上に置いて先生は立ち上がった。


「コーヒーはミルクと砂糖たっぷりだったか?」

「かなり多めでお願いします」


先生が席を立ってから俺は先に紙を手に取った。使用許可が下りたという事はそこまでまずいモノでもないのだろう。


「……ふーん」


読んでいるうちにコーヒーが出来上がったらしくコトンと音を立てていつの間にかオレ専用となっていたマグカップがテーブルの上に置かれた。
ソレを見る度いくらなんでもこの部屋に入りびたりすぎかと思うがまぁ便利だしこれからもこの部屋に来ることになると予想はついてるので何も言わないで置いておこう。だいたい先生が勝手に用意したんだし。


「注意して使えよ?」

「……はぁい」


ニヤニヤしながらそう言った先生に俺も含み笑いで答えると紙と小瓶をポケットに入れて俺はカップに手を伸ばした。







***



「はぁ!? 惚れ薬を手に入れたぁ!?」

「しっ、お静かに。あまり聞こえの良い話では無いので……」


こっそりとしかし完全に人気が無いとは言えない場所で俺は主にあることを告げた。

そう、ジンからもらった薬のことだ。


「あ、悪ぃ……」


慌てて口を押えるがまぁあまり意味は無いだろう。
いったい今ので何人がこの話を聞いてしまったのか……閉鎖的で未熟な者が集まる場所だ。きっとすぐに皆に広まってしまうだろう。

さて、困った困った……なんて、嘘だ。

俺はこうなることを予想してこの場で主に話をした。
正直な話、あの薬をどうしようかの方が困っていたのだ。

こうなればきっと俺以外の誰かがこの薬を欲するハズだ。噂を聞いて欲しがる奴も出るだろう。後は周りが好き勝手にするだろう。
あまりいい趣味とは言い難いがこんなのイタズラの範疇だろう。


「で、どうするんだ? それ」


こんどは声を潜めて、主が聞く。
ちょっと楽しそうな表情が年相応で可愛らしい。親ばかならぬ主ばかかもしれないが。


「どうもしませんよ。使いたい相手もいませんしね……惚れ薬と言っても効果は1日程度みたいですし」

「1日かぁ……思い出をもらいたい感じかソレを機に付き合いたいと考えるかだな。っていうか相手がいたら使うのか?」

「いえ、俺は主のモノですから。他の方に懸想したとしてもそちらに溺れるわけにはいきませんし、ジンの時で懲りました」


きっぱりと言い切れば主は不満そうな、でも少し嬉しそうな表情をした。


「えー、つまんねぇなぁ……」

「主こそ欲しくないんですか? 主が欲しがったら渡そうと思ってこの話したんですけど」

「俺も使いたい相手いないからいーの」


そういうと思った。と心の中でほくそ笑む。
主の交友関係を詮索するつもりは欠片も無いが主は欲しいものは全て持っているのだ。例えば思い人、余計なお世話であるだろうがこれは島咲様が当てはまるだろう。そして島咲様は主にべた惚れだ。後は友人関係だって良好で自分で言うのもなんだがこれで兄弟のような存在である俺が加われば死角はないだろう。


「ではどうしましょうね……手元に保管はしているのですが何せ瓶入りの液体ですので少し邪魔なんですよ」

「そうだなぁ……うっかり知らない誰かの手に渡ったら怖ぇもんな。いっそ信用できる誰かにやっちまえば?」

「それもそうですが誰に、が問題なんですよね……。いっそ遊び半分で自分で飲んでみましょうかどうせ1日ですし」


そうつぶやけば主は不機嫌をあらわにして眉を寄せた。


「それでうっかりナニされたらどうすんだよ。惚れるがどんなレベルか分かんねぇじゃん。メロメロになったら抵抗できなくて危ないんじゃねぇか?」

「俺にそんなことしたがる方なんています?」

「いる! 特にあの生臭青坊主とか……っ!!」


生臭青坊主……酷い謂れようだがこれは咲矢先輩か。
主と先輩は仲が悪い、というか主が昔のいざこざを引きずっているのだが……ここでは長くなるからソレについては置いておこう。

いくら主が咲矢先輩を毛嫌いしているとはいえそこまで酷い事をすると思われているとは、さすがに先輩に同情する。


「あはは、そんな心配することも無いと思いますけどね」

「誠は変なとこで鈍いなぁ……とにかく! 絶対に自分で飲むなよ!! 主命令な!」

「はい」


強い口調でそういう主に苦笑いしながら俺は今後の成り行きに想いを馳せるのだった。











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