main:long
□第一楽章:前奏曲V
1ページ/11ページ
君は、知っていた。
俺の罪も、俺の消せない足掻きの後も。
生きる為の犠牲になれるんだ――
なんて美しい生き物………
****
…神奈川・古都鎌倉……―
「出て行けぇッ!!お前こそこの土地を凶作へ追い込んだ不幸者だ!」
ガツンと音を立てる扉。
砂利の敷いてある地面に僕は叩きつけられる。
『――っつ!!』
口の中に鉄の味がしてきた。
きっと何箇所か切れたのだろう。
吐き気が止まらない。血生臭い血が、口の中だけじゃなくて、体全身に染み出ているようだった。
今さっき、僕を外へ叩きつけたのは、此処の土地一体を有する農家の伯父さん。
伯父さんだって言うけど、別に血のつながりがある訳じゃない。
ただ、鎌倉の海に伸びていた僕を拾って奴隷の様にコキ使っている。
ふざけた爺だ……
重い体を起こすと、よろよろと歩き始めた。
目的なんて無い。ただ歩くだけ。
『どうして…僕は………』
爺のやってきた仕打ちが頭の中にクラッシュバックする。
水をかけられ…
殴られ……
凍える中での水仕事。
もう、沢山だ………――
気づいたら頬に雫が伝ってた。視界が涙のせいで曇る。
「おーい、悟司。また、野村の爺さんにいじめられたんだっぺ?」
「…ったく泣き虫小僧だなァ悟司は。」
村の餓鬼大将の奴らが僕を取り囲む。そんなことは、どうでもいい。
どうでもいいんだ……
餓鬼たちが、僕に向かって小石を投げてくる。
手や、頭に当たって痛い。
奴らの言葉に聞く耳なんて持たずに、ずるずると足を引きずって川の方へ歩いた。
手が、毎日のようにやらされていた洗濯仕事で、しもやけができ、真っ赤になっていた。
痛い…よ。