Memoria
□31:求めた強さ
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俺にはなかった。
昔から、俺は何一つ与えられることなく成長していった。
ほしいとも思わなかった。
だって、俺がもらえなかったものは「親の愛情」だったから。
親の愛情に代わりはないと誰かが言っていたけれど、
俺からすれば、あの方がくれたものこそが全てだった。
たとえ、それが打算のない愛情と違うものであったとしても。
俺にとっては打算のないものほど、恐ろしいものはないのだから。
「紅葉〜♪」
集中していた紅葉の後ろから抱き付いてきたのは葉夜だった。
巻きついてきた腕を厄介そうにしながらも紅葉はそれを退こうとはしなかった。
「精が出ますなぁ」
「まぁ、な」
まだリングは帰ってきていない。
スクアーロが帰還するまで、後もう少しといったところだろう。
待ち遠しいといえば待ち遠しいのだが、紅葉のリングがくるとは思えなかった。
「俺のリングが来るわけではないんだがな」
自嘲気味に笑いながら立ち上がった。
もちろん、葉夜は首に巻きついたままだ。
紅葉はそれを気にせず、そのまま歩き出し始めるのだった。
「第一、お前は何しに来たんだ?」
「ムッティー(お母さん)にご飯をもらいに来たのー」
「誰がムッティー(お母さん)か」
葉夜が首に巻きついたままの状態でうまく歩いて部屋から出て行く紅葉。
そして、廊下に出ると冷ややかな空気が身を震わせるが、
後ろから感じられる暖かいぬくもりのおかげでさほど寒くは感じなかった。
「はぁ、しょーがないな。何作ろうか」
「んーオムライスかパスタ!ピッツァもいいなぁー!」
「はいはい。全部作ってあげるから」
苦笑しながらも楽しそうだった。
(…ありがとうな、葉夜)
口には出せないお礼を、
静かに心の中でつぶやいたのだった。
31:求めた強さ
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