Memoria

□36:望みを懸けて
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静かな木漏れ日。
穏やかな風。














―――――紅葉はここにいた。

ゆったりとした足取りで、進んでいっていた。
紅葉は辺りの木漏れ日に目を細めて、
穏やかに微笑むと、抱えていた花を持ち直した。



















―――――貴女はお元気でお過ごしでしょうか。
最近はめっきりと会うこともなくなってしまって、申し訳ないですが、
今日、久しぶりにここにくるほどの時間ができました。






















持っていたバスケットを見て、ふっと笑みを零すのだった。



―――貴女の好きだったビスコンティを作ってきました。
そして、エスプレッソも用意してきました。
お好きでしたよね。



朝早く起きた。
コレを作るためだけに。
















そして、波の音が紅葉の耳にかすかに届いた。
近くなってきたのだ。

あの人が眠るあの場所が。























「……お久しぶりです、母さん」
























坂を上りきった先の、大きな楓の木の下。
10月の終わりにもなれば美しい紅葉<コウヨウ>が舞い散るその場所に、
紅葉の母の隠れたお墓はあるのだった。
















「……あなたの好きだった、オダマキの花です」



















紫色のオダマキを持ってきた。
それを水を入れたビンにさして、墓の前に置いた。
そして、蝋燭たてに火を灯した蝋燭を置くと、

バスケットの中に入れていた線香を取り出して、火をつけた。
線香らしい匂いが漂って、それに混じるようにして海風のにおいが感じられた。





















いくら、オダマキが好きだったからといっても、この花を選んだにはわけがある。

紫色のオダマキの花言葉は、
「勝利への決意」




















「…静香さん、俺は……」
























―――――貴女はどんなことがあっても誰かを恨むなといったけれど…























「俺は…っ」

























紅葉は昨日の出来事を思い出した。

























36:望みを懸けて























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