Memoria

□57:二つの大空
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「片付けるだ?


昨晩のあの程度の力でか?」





「昨日のオレと同じに見えるか?」













ツナとXANXUSの視線が交錯する。
互いから放出される殺気にチェルベッロは息をのんだ。
しかし、このままでは開始を告げられない。










「観覧される方はこちらへ!」
「急いでください!」
「観覧席は校舎裏の一面です。
守護者戦と同様赤外線センサーにより出ることができませんので、あしからず」
「あなたたちもです」
「げっ、バレてんの」











影から見守っていた犬と千種。
全員が観覧席へ入ったのを確認するとチェルベッロは周りを見渡した。
そして、何事もないのを確認すると、
高らかに開戦を告げるのだった。











「それでは大空のリング
XANXUSVS沢田綱吉」

「勝負開始!!」












煙が起こる。
先ほどのXANXUSの攻撃で起こったもの。
ツナの炎が揺らめいた。
XANXUSはそれを眺めながら、笑った。









「やはり、何も変わって見えんぞ」










XANXUSの声が紅葉の耳に入る。
何とか、顔を上げてみる。
電撃の痺れと、毒の周りの早さに意識がもうろうとするが、
二人の戦いを見守らなければならない。
紅葉は必死で二人の姿を追った。

一瞬でやり取りされる二人の動き。
普段の状態であれば、すべてをまともに追うことができるのだろう。
だが、今の朦朧とした状態ではかすかな動きすら追うのが大変だった。









「がっ!」









XANXUSの蹴りがツナの鳩尾に決まる。
ツナの攻撃をものともしない、XANXUSの驚異的な身体能力。
今までの戦いで、一度たりとも腰を上げなかった男だが、
これこそが戦闘集団ヴァリアーの頂点に立つ音の実力というわけだ。
シャマルも「まー、なんつースピードだ」と素直に驚きの声を上げる。
ツナは遠くへふきとばされ、
紅葉の上空ギリギリを通って行った。







「こんなものか」







XANXUSが失望の声を出す。
くだらない。
この程度の実力で、戦っているというのか。
紅葉がXANXUSの視界に入った。
苦しみながらも、何とか顔を上げ、こちらをじっと見つめている。
助けて、そんな意思は感じられない。

ふっと笑い視線をそらすと、
炎を巻き起こして、突っ込んできたツナの片腕を強くつかんだ。
外そうとツナは試みてみるが、
ギリリッ…と音を立てて握られる手に、外せそうになかった。
「あ?」と冷たい声が、聞こえる。
















「もう、逝くのか聞いてんだ」

















右手に集められる光。
次第に大きくなっていくその光に、ツナは何かを感じ取った。
場外からのリボーンの「そいつはやべーぞ」という声も聞こえたような気がした。
一瞬のその超直観の働きが、
ツナに炎を逆噴射させて、空中へと飛び上がった。
XANXUSに腕をつかまれたままだったが、XANXUSの手から噴射された炎をかわすことはできた。

その炎は紅葉を避け、校舎へと当たった。
ツナの炎とは異なったその炎は、一瞬で校舎を灰にし、炎が当たった部分だけ、がっぽりと穴が開いてしまった。
ツナは目を見開いてそれを見た。
自分の炎でもここまではならない。









「おい…鉄筋の校舎だぜ…」
「風化した…」

「相変わらずだな、ザン坊は……」
「あぁ…」










見ていた全員が、息をのむ。
一瞬で鉄筋の校舎を風化させるその炎には驚かせられる。
紅星すら、相対するのが嫌だと思わせるその死ぬ気の炎。
リボーンは静かにつぶやいた。





「憤怒の炎だ」






憤怒の炎…――――
久しぶりに見たかもしれない。
紅葉は隣を通り過ぎて行った閃光をもうろうとする頭で見つめ、思った。
あの炎に惹かれたのだ。
あの強烈なまでの強さに。
「ふはは」と、静かなXANXUSの笑いが聞こえてくる。
下手をすると当たっていた恐怖など、ない。

ツナは炎を噴射し、
XANXUSから離れると校舎の側面を駆け上がり、とある一点で止まった。
そして、XANXUSを見下ろした。
紅葉を探してみると、けがはないようだ。
かろうじて炎のポイントからずれたらしい。











「憤怒の…炎?」

「死ぬ気の炎は、指紋や声紋などと一緒で一人ひとり、個体によって形や性質が違う」
「例えば、紅星とオレでは炎の色も、ちょっとした性質、形も違う」
「そして、XANXUSのは極めて珍しい光球の炎だ。歴代ボンゴレのボスでは、唯一武器を持たず、素手で戦った2代目だけが、この炎だったという」










バジルの質問に、紅星・冥夜・リボーンが答える。
そして、リボーンがちらりと紅星を伺った。
帽子を直すと、
もう一度モニターを見直した。











「この炎の特徴は全てを灰に帰す、圧倒的な破壊力だ。
そして、2代目が激昂した時のみ、この炎を見せたことから、今では死ぬ気の炎とは別に憤怒の炎という」















圧倒的破壊力。
これこそが、XANXUSの"力"の象徴。
この光を恐れ、憧れ、
ヴァリアーという組織は成り立っている。



(…まぁ、2代目と憤怒の炎については……右京家の方が詳しいんだろうがな)




紅星はその低い位置からの視線に気づいた。
目を合わせると、困ったように笑った。
そして、すぐにモニターに目を戻す。













「なぜおまえと同じ武器<グローブ>をつけた初代ボンゴレが日本へ逃げるように隠居した?


2代目との勝負を恐れてだ」
















XANXUSは高らかに言い切った。
ツナは目を見開いた。
もちろん、初代と2代目の間に何かが起こって初代は日本へ来たのだろう。
その家系がツナ、家光の家系だ。
初代より続く、正当な血脈…
そして、憤怒の炎を宿すXANXUS。

初代VS2代目…

かつての因縁すら彷彿させるような対決。
XANXUSは上にいるツナを見上げる。
しかし、その視線は見下しているようなそんな悪意すら感じる。











「軟弱な死ぬ気の炎が憤怒の炎に焼かれたとあっちゃ、最強の名がすたるからな。
この炎にびびったんだ」











憤怒の炎。
その威力は確かに計り知れないだろう。
だったとしても。
ツナは静かに炎を揺らめかせ、つぶやいた。










「試してみるか?」

「!?」

「貴様の炎とオレの炎、どちらかが強いかを」










ツナの凛とした声。
そして、内容をよく咀嚼してみれば無謀な賭けとも聞こえる。
バジルが動揺する。
XANXUSですら、一瞬聞き間違えたかとも思ったのだが。
ツナは一度、両手の死ぬ気の炎を消した。
体が宙に浮いたような感じがする。

そして、もう一度炎を込めて、
XANXUSの方へと一直線に向かっていく。











「ガチンコか!!」

「ぶははは!!どこまでもカスが!!」












XANXUSの笑い声。
笑いをひっこめると、XANXUSは手に炎を宿した。
そして、ツナを冷たい目で見つめる。











「それ程消えたきゃ」












二人の炎が集まり、強く光る。



















「かっ消えろ!!!」






















二人の炎が正面から衝突する。
強烈な発光と熱風が、周囲一帯を包み込みチェルベッロですら、巻き込まれる。
遠いはずの観覧席にまで、強烈な風が吹き込み目をつぶらざるを得ない。
紅星は「紅葉は!!?」と爆炎で埋まってしまったモニターを見る。

紅葉は刀を抜き、地面に刺すとそれにすがりついていた。





二人の決着はと、
紅葉は必死で爆風に耐えて、顔を上げて二人を見守った。
爆風の中、ツナがXANXUSの炎を突き破り、XANXUSに一撃を浴びせる。
その威力に、無防備だったXANXUSは校舎まで吹き飛ばされる。
「ざ…XANXUS様っ!!」と、
今出せる精一杯の声で、XANXUSの名前を叫ぶ紅葉。

猫のように、ツナはしなやかに着地する。
炎の勝負はツナが勝ったのだ。













「まさか…こんなことが……」
「お…おい…こいつぁ…」

「沢田殿の炎が、XANXUSの炎を……上回った!!」















柊も、シャマルも驚く。
バジルのうれしそうな声が響く。
リボーンはにっと笑って「修行の成果だな」と言った。
紅星はそれを見て、ツナを見る。
10日余りで、よくここまで…
やはり、この子こそ、ボンゴレの10代目としてふさわしいのかもしれない。










「総合的な破壊力はXANXUSの炎の方が上かもしれねーが、
ツナは炎をコントロールし、一か所に集中させることによって、XANXUSの炎を突き破ったんだ」

「なるほど…確かにXANXUSの憤怒の炎はコントロール性よりも、圧倒的な破壊力と広範囲に優れた炎だからな…」











紅星も納得する。
冥夜がそれを聞きながら、じっと眺めた。
紅星も、冥夜も柊もよくわかっている。
XANXUSという男を…
これで、終わる男であったのなら苦労はない。
ツナもそれをわかっているのか、
四肢に力を入れると、地面を蹴ってXANXUSのところへ直進する。

すると、XANXUSが倒れた場所から光球の光が感じられる。
ツナはとっさに炎のシールドを展開する。
これであらかたの炎は防げる。












――――カチ…













一瞬の違和感。
かすかな音にツナが目を見開いた。
その次の瞬間に集約された炎がツナを襲った。
それは、炎のシールドすら突き抜け、
そしてツナにダメージを与えた。
一体何が起こったのか。
煙の中から、炎とともに飛び出してきたのはXANXUSだった。
ツナの後ろへと着地する。

それを見て、紅葉は目を見開いた。












(…まさか……あの人が、あれを…使うなんてな……)





「カスごときに、武器をとるとはな…」














はためいた隊服の内側から現れた手。
そして、腰に巻かれた銃を入れておくホルダー。
その手に握られた黒い銃。
赤いラインでXと書かれているそれ。
XANXUSは両手にその銃を持っていた。
巻き起こる風に、隊服がはためいた。











「XANXUSも武器を使うのか。
しかも、あれは7代目と同じタイプ」












リボーンは顔をしかめた。
ツナも何かその危険性を理解している。



















「2代目の炎に7代目の銃…

こいつは凶悪な組み合わせだぞ……」






















57:二つの大空
























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