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□元気は、あなたが×神堂春
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夜中の1時。
家までの帰り道を
1人で歩く。


「はぁ…疲れた…」


さっきから
何回目か分からない
ため息がこぼれる


原因は仕事。


今日はボロボロだった。


ドラマもNG続き、

本業の歌は
生放送でミスしてしまった。



そりゃ〜もう、
山田さんには怒鳴られ


隼人さんには
いやみを言われ…


先輩アーティストからは
調子に乗ってるとか
なんとか…


励ましてくれる人も
いたけど…



確かに気を抜いて
いたのかもしれない



仕事はずっと順調で
仲間には恵まれて、




一番痛いのは
歌でミスしてしまった事。



春と付き合う上で
自分の中で決めたルール。



歌だけは認めて
もらえるように。




それだけは
譲りたくなかった。




なのに…
歌詞を間違えたうえ、
ダンスも間違えた。





きっと春も
見てただろうな。




「…帰りたくないなぁ…」

絶対、怒られる。





少しだけ言い訳させて
もらえるなら、



忙しくって、
疲れていた。



でもそんなのは
皆同じだし、
私だけが大変な
訳じゃない。




「言い訳にもなってないよね…」


立ち止まって
見上げると、
マンションの前。



(着いちゃった…)




深呼吸して、
部屋に向かう。



結局、自分が悪いんだから
どうしようもない。







と、気合いを入れてはみるものの…
一応ドアはそろ〜っと
開けてみて…




(あれ〜いない…?)




リビングまで行っても
春の姿はなかった。



ちょっとホッとした。



ソファに腰掛けて
考える…



私なんで芸能界に
入ったんだっけ?


もともと特別な
夢があったわけじゃない


歌手だって、
女優だって、


きっかけは
なんとなく…



そんなに目立つタイプ
でもなかったし…



「もう…」


「もう…、何?」


「えっ!」


驚いて振り向く。


春がカップを二つ持って
リビングに入って来た。


「お帰り、遅かったな…仕事?」


「ただいま、…うん、まぁ」

「そうか、コーヒー飲む?」

「ありがとう、」


春は私にカップを一つ
渡すと隣に腰を下ろして
楽譜に視線を落とした。


「仕事…?」


「あぁ…次のシングル」


「もう遅いよ?明日も早いし…」


「発売日だけ先に決まってしまったから、あまり時間がなかった。だからといって妥協は出来ない」


「そっか…無理しないでね」

「あぁ、ありがとう」


春はふっと微笑んで
また視線を落とした。



(忙しかったなら…見てないかな?)



「着替えてくるね」


そう告げて
リビングを出た。




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