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□好きは、思いやり×神堂春
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様子がおかしいのはいつもの事。



でも今日はいつも以上にそわそわ。





リビングで俺の横に座ってたと思ったら、

キッチンに行ってまた帰ってきて、

床に座ってテレビを見て、

ちらっと俺を覗き見たら

また立ち上がって携帯見たり、

今度は時計をちらちら。





(面白いからほっておこうか…)





また落ち着きなく動き出す。






(かわいそうかな…)





ふふっと心の中で笑うと
聞いてみた。






「どこか行きたいの?」




「え、どうして?」




大きな目をぱちぱちさせて
聞き返す。




久しぶりの重なった休みに
忙しい俺を気遣ったんだ。





『今日はお家でゆっくりしよう』




でもきっとそれは本心じゃないな。






「分かるよ、どこに行きたい?」






「べつに…」





「嘘つきはよくない」





俺の横に座らせて耳元で囁けば
顔を真っ赤に染める。





なんてわかりやすいんだろう。





「春がね…」






「俺?」





「春が行きたいって言ってた写真展、開催が延長になってて…」





聞けば俺が何気なくこぼした言葉。






『この人の撮る写真好きなんだ』





雑誌を見せて名無しに話したっけ?



写真展があるけど
仕事で行けないなって。




そうか延長になってたのか。





「…今日までなの!でも春、疲れてるでしょ?」





「それじゃ、行こうか」





俺は立ち上がった。





「いいの?」





「あぁ、せっかく君が誘ってくれたんだから」





「ありがとう」




満面の笑みはかわいい。
惚れた弱みかな。




俺のために行くのに天然だなぁ。

いや、それだけじゃないかな。






平日の夕方だからか
割と人は少なかった。


ゆっくり写真を見て回った。



いい写真ばかりで心が落ち着くな。

いつか仕事したいもんだ。



十分堪能して外に出た。





「誘ってくれてありがとう」




そう言って彼女の手を引く。





「どこ行くの?」





「内緒。」





不安そうな顔を流して

俺は彼女を近くの広場に連れて行った。




さっきの写真展でチラシを見た。



『期間限定イルミネーション』





今年から始まったらしい。



それも今日まででおしまい。



本当の目的はきっとこれだ。




そこまで行くと、
君は驚いた顔で固まってた。





「どうしてわかったの?」





「君のことはなんでも」





にこりと笑えば
倍で返ってくる。





「ありがとう」





近くのベンチに腰かけて
ゆっくりイルミネーションを眺めた。




だんだんカップルが増えて行く。


でもみんなそれぞれの世界。



誰も俺達のこと気にもとめない。




ふふっと彼女が笑う。





「まさかここにJADEの春がいるなんて誰も思わないよね」




(君も似たようなものだけど…)




「多少は変装してるからな…しかし、なかなか人気だな」





平日なのに人が多い。





「このイルミネーションを見ると願いが叶うんだって」





誰が言い出すか知らないが
そんなジンクスがあるらしい。




素敵な話だ。

冬のラブソングでも作りたくなる。



願うことで少しでも幸せになれる。





「何をお願いする?」





名無しに聞いたら、



うーん、と考えた後


手を組み合わせて。





「春があのカメラマンと素敵な仕事が出来ますように」





今度は俺が目をぱちくりさせた。



名無しは笑って
「叶うといいね」と言った。





確かにさっき音楽と
写真で何か出来ないかと、

彼と仕事がしたいと思ったけど。



本当に君は、
わかりやすいのかにくいのか。





とりあえず肩を抱き寄せて
君で良かったと思った。





「俺の願い事してどうするんだ」





そう言っても彼女は微笑むだけだった。





残念だけど俺は自分のことを願うよ。









『君がいつまでも俺の隣にいますように』










わかりやすいんじゃなくて
思いやりのあかし。








 

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