short

□こころ、はんぶん×折原夏輝
1ページ/3ページ





今日もまた俺は仕事に追われてた。








春と二人で居残り。












春は…








ちょっと家に帰ってくる、と






あれから2時間。









(何やってんだ?)










俺は携帯を取り出し
春にかけた。





電話に出た春は、
俺を困らせた。






「今、動けない」




「冗談言ってないで…仕事だから」




「あぁ…わかってる」




「わかってんなら…」




「悪いが、仕事届けてくれないか」












なんだかんだ春に甘い俺。










夜中に車飛ばして来るところが
男の家なんて、色気のない話。










なんとなく気を重くして
インターホンを鳴らす。














反応なし。











(ったく……)










携帯に掛けると、
珍しくワンコールで
呼び出し音が鳴り止む。









「…はい」




「あぁ…春か?インターホン鳴らしてんだけど、開けてくれよ」




「開けといた。」






(自分で呼んどいて…)








ため息まじりに
春の部屋へ向かう。












リビングまで行っても
春の姿はなかった。











(どこにいんだ?)









家中探し回って見つけた場所は
ベッドルーム。







「春、いるんじゃんか」




「あぁ夏輝、悪いなわざわざ」




「ほんとだよ、って…」








文句を言おうと思ったけど、





ふと春の横に目を向けると、





布団にくるまって

春の手をぎゅっと抱き締めたまま

眠っている名無しちゃん。











「どうかしたのか?」




「あぁ、風邪みたいだ」







春は空いている手で
名無しちゃんの髪を
かき分けながら言った。









「大丈夫なのか?」




「熱はもうだいぶ下がったよ、悪いな……わざわざ」




「今度なんかおごれよな」




「ふ…あぁ覚えとく」









なんとなく俺は

部屋に入れずに

入り口に立ったまま










こんなこと病気に


苦しんでいる人を前にして


不謹慎だけど、

















春がめちゃくちゃうらやましかった。













今、彼女の横にいるのは俺じゃなくて。






今、彼女が
傍にいてほしいと思うのも俺じゃない。










春は名無しちゃんから自分の手を離して、
布団をかけ直すと
優しくキスをひとつ落とす。












俺がいるのを

忘れてんじゃないかってほど、

自然に愛が溢れてた。










春がここまで

自分の気持ちを表す事ができる存在に

嬉しい気持ちと悔しい気持ちが半々で、









俺の事をいつだって苦しめた。














俺だって、彼女が好きだった。














正直、今でも……










二人が付き合う前に


春に気持ちを打ち明けてたら


春はきっと、


恨みっこなし、正々堂々と


俺の恋を喜んで、


それから譲らないと言っただろうな。














ふと、あの頃俺が

いろんな事考えないで動いてたら、








今の春と俺の位置が

違ってたんじゃないかとか



せこい事を考えてしまう自分が嫌だった。










結局、

勇気を出せなかったのは俺なのに。

















――
―――







「…き、…つき?…夏輝?」



春の声で我にかえる




「ん?あぁ…悪い、ぼけてた」




あのあと俺は春のマンションに残り、

そこで一緒に仕事する事にした。






しばらく会えてなかったから
春も名無しちゃんと
一緒にいたそうだったし。





でも仕事もしてもらわないと困るし。















……っていうのはJADE的理由。














本音は名無しちゃんが
心配な気持ち半分に。




春の邪魔してやりたい気持ち半分。














また俺の心は半分になる。






最近の俺は、

自分でもどれが本当の気持ちなのか

解らなかった。









「とりあえず、曲順はこれで…明日、冬馬と秋羅に確認して…」




「あとはラストの曲だか…夏輝?聞いてるのか?」




「……歌詞、もう出来るよ」



「そうか…なら問題ないな、一服するか」






春は俺にコーヒーを入れてきて、

灰皿を渡すと、

自分は煙草も手に取らず

名無しちゃんの様子を見に行った。











次のアルバムには
その前にリリース予定の
新曲を入れる。







その新曲の作曲は神堂春。

作詞は俺だった。








今回は作詞をやりたくて、
自分で言い出したけど、










実はまだ一文字も書けていなかった。











今の俺が書くと、
切ないラブソングしか出来なさそうだった。











なんで作詞なんて言ったんだろうな。











吐き出した煙を目で追っていると、



ふいに春の声がした。





「俺ちょっと出てくるから…少し頼む。」




「どこいくんだ?」




「今、名無しが起きて…なんか食べたそうだから買いに行ってくる」




「名無しちゃん起きたの?」




「あぁ…でも今また寝た。頼んだぞ」




春は車のキーを持って
部屋を出ていった。










ひとり、リビングに残る。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ