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□開催!、武芸大会×真田幸村
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(また変な大会を…)



私は尾張に来ていた。



信長様の提案で、
今度は戦国一強い武将ならぬ、
姫君を決めるらしい。



なんでも、姫様なら教養はもちろんの事、
戦えてなんぼなのだそうだ…




「守ってもらうばかりの姫様じゃおもしろくねぇ!」




とのことだった。





それでなんで私がここにいるか。



大会の開催が決まったとき、
全国の武将のもとに
参加状が届いた。



梅一さんが届けてくれた参加状には
一人姫を立て、参加すること
強制参加とのことだった



それはもちろん幸村様も例外ではなかった。



そこでひとつ、
誰を姫にたてるか。



女同士とはいえ、信長様主催の武芸大会。
出場者はそれなりの使い手であろう。



ど素人を出場させるわけにもいかない。




「それなら問題ないじゃないですか、幸村様♪」




佐助さんの一言に視線が
一気に私に集まった。



「でも…!私、農民なので…」




「今更関係ないって♪」






ということで、私は尾張に来ていた。
里帰りも兼ねてだし…
幸村様も、




「無理しなくてもいいからな、出来るとこまでやってこい」




と言って下さったから、
気持ちも軽い。



やるからには良いとこまで行きたいけど…
日頃の修業の成果を試してみよう!



清洲城を見上げて立ち止まっていた私は
そんなことを考えていた。




「名無し、何やってんだ?早く行くぞ」




「はい!」




幸村様に呼ばれ私は城の中に入った。






幸村様に出会ってから
初めてのことばかり。

いろんな経験を
させてもらっているから
たまにはいいとこ見せて、
幸村様を喜ばせてみたい。


密かに私はそんなことを思っていた。





−−
−−−





大広間にはたくさんの人がいた。
信長様をはじめ家康様に、
謙信様、政宗様、
諸国の名だたる大名に

もちろん秀吉君はじめとする
織田家家臣も勢揃い、


まさかこんなに大掛かりな大会だとは…


さすがにちょっと緊張してきた。



すると堅く握りこぶしをつくってしまっていた手を誰かがそっと握ってくれた。




「幸村様…」




「大丈夫だ、俺達もついてる。そんなに堅くなるな」




そのひとことにどれだけの力があるのか
この方は分かっているのだろうか?




「はい…」




私の緊張も解けた。






だがそれも束の間、





「みてあの子…」





「いやぁね、本当…場違いってことに気が付かないのかしら?」




クスクスと笑い声が聞こえてきた。



(いつものこととはいえ…慣れないな…)



農民の娘がこんな場にいることなど
ありえないのだから無理もない。



だけどもう何回か
こんなこともあったのだから
いい加減、飽きて止めてくれないものか
とも思う。




小声で「構うな、言わせておけ」と
幸村様の声がした。



私は返事のかわリに
見えないところで握ってくれていた手を
ギュッと握り返した。



すると襖が開いてお市様が入ってこられた。


相変わらず美しく
みんなの注目を浴びていた。



すると先程まで私の噂をしていた人達が
お市様に近づいた。




「おひさしぶりでございます、市姫様」




頭を下げ挨拶された。
しかしお市様は、




「あら、どこかであったかしら?ごめんなさい噂話は得意じゃないからすぐに忘れてしまうの…名無し!久しぶりね!」




女の人達は顔を真っ赤にしてそこにいて、
連れらしき武将の方々に小声を
言われているようだった。

お市様が私を見つけて駆け寄って下さった。



私は頭を下げて、





「ご無沙汰しております、お市様。お元気そうで何よりです」




「えぇ、あなたもね」




と笑ってくださった。




するとお市様は声を潜めて、




「言わせたい人には言わせておきなさい」




一言残して、信長様のほうへ
歩いて行かれた。


こんな私を庇って下さる…
本当に優しいお人だなぁと思って
目で追っていると、

笑いを堪えている信長様達がいて、
「市、ほどほどにしておけよ」と
つぶやく信長様が見えた。








「さてさて、皆様」




秀吉くんの声にざわついていた
部屋に静寂が訪れる。




「本日はお集まりいただき感謝する、今回は戦国一の強い姫を決める大会だ、主催はこちらの信長様」




そう告げると信長様に目線をやり
受け取った信長様が話し出す。





「いいか、真剣勝負だ。卑怯なことはするんじゃねぇぞ」




信長様は扇をあおぎながら言った。




「俺は市を出場させる、舐めてかかるなよ」




「お手柔らかにお願いいたします」




ふわりとほほ笑むお市様だったが、
部屋は少しざわついていた。



今までいろいろあったけど
お市様はいつも主催者側で
自ら参加されるのは初めてのことだ。



その様子を満足げに眺めていた信長様は
咳ばらいひとつすると
扇をパタンと閉じ、にやりと笑った。




「あぁ、それから優勝者にはなんでも好きなものをやろう。」




その一言に部屋はさらにざわついた。




「静かに、そういうことだ。まず第一回戦だが……ここで人数は十名ほどに絞る、種目は長距離走だ」




(え…?長距離走…)




意外な言葉に目を丸くした。
てっきり、薙刀とかかと思っていたから。





「今すぐ始めると言いたいところだが、半刻やるその間に準備しろ、城門前に集合だ」





数秒後には広間には私達と信長様達、
数名しか残っていなかった。





姫様達は綺麗だが、重すぎる体を
軽くするため着替えに行ったに違いない。






「長距離そうなら楽勝だね!相手は運動知らずの姫様だし」




佐助さんは余裕そうにしていた。




「まぁ走るのなら、体力には畑と幸村様達のおかげで自信がありますし…」




旅のおかげで体力もついたし。




「ところでお前は着替えなくても良いのか?」




才蔵さんが言った。




「そうですね…私はいつもの着物ですから…着替えも持ってきてないし…」



すると何処からともなく、
信長様の声がした。




「なんだ名無し、始まる前からびびってんのか?」




「違いますよ!信長様」




「冗談だ!おい、市。名無しに着物貸してやれ」




「はい、お兄様。名無しこっちよ」



「いえ…私はこれで…」



「つべこべ言うな!」



「は、はい」



となかば強引に
連れていかれたのは、
お市様の部屋。




「お市様?私この着物で十分ですよ?」




「だめよ、それじゃ走りにくいわ」



そう言って袴を持ってきて下さった。



「…ありがとうございます」



(お市様が袴なんてなんか意外だなぁ)




「私がまさか袴着るなんて意外だなぁ〜とか思ってるわね」




「えっ…!いや…あの〜、はい。すみません…」




「ふふ、謝らなくてもいいのに…私だってそう思うから。姫の私にこんなことさせるなんてたいしたお兄様でしょ?」




お市様の少し茶化すような口ぶりに
私もつられて笑ってしまった。




「やっと笑ったわね。名無しは笑っているほうが素敵よ?」




(お市様……)




「緊張しなくても、気楽に行きましょう。でも負けないわよ?」




「はい!私だって負けませんよ。でも…お市様が出られるなんて珍しいですね?」




「お兄様の案なのよ。尾張が最近不作でね…みんな落ち込んでいるから、気晴らしになればいいと。そしたら市!お前も出ろ、みんな喜ぶからって」




「そうなんですか…私も尾張の為に頑張ります!」




お市様は微笑んでらしたけど、




「それだけじゃないと思うけどね」




と漏らされた言葉は私には
届いていなかった。





−−
−−−



名無しが連れていかれて、
信長や他のものも散っていった。




「しかし…なぜ、こんな大会を…?」




才蔵がポツリとつぶやいた。




「さぁね〜おいらはうまい飯が食えるならなんでもいいけど」




確かに才蔵の言うことはもっともだな。




「またうつけの殿の気まぐれか、振り回されるこっちの身にもなってもらいたいもんだ」




「全くだな、しかし褒美とはなんなのだろうか?何でもと言っていたが…」




そんな話をしている者もいた。




(うつけね……そう思っている者のほうが少ないかと思っていたが…)




「うつけねぇ…君はどう思う?」



突然の声の主に振り向くと、
そこにいたのは家康だった。




「家康…うつけとはだいぶん違うかと思うがな」




「なるほどね」




「お前はどう思ってんだ?」




「さぁ、どうだろうねぇ」




「お前な…」




(人には聞くくせに…)




「はは…まぁまぁ、今回は皆を気遣ってのことらしいし…信長様には何か考えあってのことだろうね」



まぁおおかた予想はつく。

ここには同盟でない者も
呼んでいる。


人の内はこういう、
なんでもない時のほうが
よく見えるものだ。



天下取りの最後戦はすぐだろう。



試しているのか、
見極めているのか。



信長の考えることは
よくわからんがそんなとこか。







「幸村様!そろそろ始まりますよ!」




佐助の声に現実に引き戻される。




「あぁ、行くか」



俺達は城門へ向かった。






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