○苦衷アブソルート

□果実。
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あなたに


あなたに食べて欲しい。


それは魅惑の








果実。







どうして!という疑問だけが
さっきから頭の中をぐるぐる。


「たまには、私のお願いを聞いてくださいよ、隊長ォ〜…。」


トホホと項垂れた私の目線の先には
お皿に乗ったまま放置された
可哀想な姿のあの子。


そう、

現世で見つけてきた
美しい山吹色に輝く
まるで宝石のようなフルーツ…!


その名も
『マンゴー』!!!!!



世間知らずの私は知りませんでした!
こんなにも、こんなにも美味しい果物が存在していることを!!


一口食べた瞬間、
その不思議なとろける様な食感、
甘味と酸味の絶妙なバランス、
そして香しい香りに
私は虜になってしまいました。


私は、この素晴らしさを色んな人に伝えようと
現世から沢山持ち帰ってきたのです。

隊のみんなにも食べて欲しい。
中でも、私の一番の恩師、
隊長にはどうしても、どうしても食べていただきたい!

この美味しさで、日頃の疲れを癒して頂きたい…!


そう思い、さっそく剥いて切って持って行って見たのです、が。








「いらねぇ。」






の一言でシャットアウト。

話は頭に戻り、私はひたすら
断られた理由を考えて、

それでも答えが全然出てこないから、
どうして!という疑問だけ
さっきから頭の中をぐるぐるまわっているわけで…。


「たまには、私のお願いを聞いてくださいよ、隊長ォ〜…。」


私の泣き言も隊長は聞いてるのか聞いてないのか、
つまらなそうにブスっと虚空を見ていて。



「美味しいのに…」

どうしたら食べてもらえるのか、
いい案が浮かぶのではと
取り敢えず糖分摂取。

お皿の上のマンゴーを一切口に入れた

その瞬間!

間口の中に広がる、
トロトロの果肉。

もう一個!
もう一個!


「うわ、ふっごい甘い!ほら隊長、やっぱりおいひいから食べた方がいいですよ、コレ!」


つい興奮してお皿を指差しながら
声を上げてしまい、
ギロッと、隊長の小さな瞳が私の方を向き
その目はまるで

「じゃあてめぇで全部食えばいいじゃねえか。」

と言ってるようでした。



違うんですよ…。
確かに、食べろと言われなくても
全部食べちゃいたいぐらい美味しいです…。

でも、だからこそ、
隊長には、大好きな更木隊長には
食べて欲しいんです。

喜びを共有したいんです…。




マンゴーがなくなった後のフォークを咥えたら
冷たくて、尖ってて、
何か隊長みたいって
悲しくなりました。




「隊長に喜んでもらいたいだけなのに……」


マンゴー、残り三切れ。

そのうちの一つを突き刺す。

「更木隊長…おいしいんですよ…?」


駄目元で口元まで差し出してみる。

これて叩き落とされたりしたら
隊長に拒まれた悲しみと
マンゴーが減った悲しみとで
私はもう、立ち直れないかもしれない…





「ほら、あーん…」



お願い、食べて!!!

あ、下さい…!





バクン!

と効果音表示が出そうなぐらいの勢いで
動いた隊長に

一瞬頭と視線が着いていかなくて

私の腕へ伝わった衝撃を認識して

漸く、

隊長が

食べてくれたのだということに



気づきました。






もぐもぐと動く隊長の口元。

うん…、確かに、食べてる…!

ジワジワと、胸が熱くなる。




「隊、長…!おいしいですか?」

しかし返事はなく、
またブスーっと虚空を見ている隊長。

お気に、召さなかったのかしら…。



おそるおそる、もう一切れ……




バクン!!



おお、まるでピラニアのような食いつき。
ってことは
美味しいと、思ってくれたってことだよね?



「ほら!やっぱり美味しいでしょう?」

さらに胸が熱くなります。

最後の一切れは自分用と思っていたが仕方ない!

「はい、これ隊長が食べて下さいね!」


少しだけ名残惜しみながらも
お皿を隊長に差し出す。


しかし、受け取る気配を見せません。

ヨク、ワカラナイ……



つまり、やっぱりいらないのかな…?

なら丁度いい。
私もあと一個ぐらい食べたかったし。



「じゃあ私食べますよー?」



ありがたーい最後の一切れにフォークを差し込んで…


口に運ぶ。
滴りそうな果汁。
美味しさをありがとう、マンゴーさま…!

今度現世行った時また買ってこよう!
と心に誓いつつ、

心の中で叫ぶ。
いっただきまーす!























「バクン!!!」
 

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