○隊服マーチング

□小春日和
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暖かい日差しの中にいるのは、




暖かい眼差しのあなた…。









小春日和








だいぶ日差しが暖かくなってきた。


冬の間に色を抜かれた世界も、
また鮮やかに色を取り戻し始めてる。


こんな日には、部屋の中でじっとしているのが勿体なくて

意味もなく縁側に出たくなる。



降り注ぐ日差しはやわらかく

頬を撫でる風は暖かい。


そして…










「てめぇ何仕事さぼってんだよ…。
斬られてえのか」







降ってくる言葉は鋭い…。




「…ん、なんでぃ土方さんかぃ。
てっきり蝿かなんかの羽音かと思…「本気でぶっ殺すぞ!」


寝転がってる沖田さんの喉元に
血管浮び上がらせながら刀突き立ててる土方さん。



こんなのどかな日に似合わなすぎる光景を横目に見ながら

私はどうして良いのやら…。



取り敢えずお茶を一杯すすってみた。




土方さんが怒るの目に見えていながら
堂々と昼寝するなんて、


沖田さんも止めておけば良いのに…。



そうと思って
ふと気付く。



あぁそういえば、
今の自分は仕事してないでひなたぼっこしてるんだから
立場的には沖田さんと同じなんだ…。


と、言うことは・・・



次は私が怒られるのだろうか…?



暖かい気候のせいか
のんびりと巡る思考回路。


沖田さんと同じ目に合うなんて
実際大惨事なはずなのに

不思議と焦りとかそういった感情は生まれない。


やっぱりこれも
この暖かい気候のせいなのだろうか…。




と、そんな思考を巡らせてる内に

気付けばお隣さんの騒動も治まっていて、


面倒くさそうに歩いていく沖田さんと、
さっきまで沖田さんが寝ていた所にどっかりと胡坐をかいている土方さんがいた。



少し不機嫌そうな様子で煙草を口に加える。



あぁ、こんな空気の美味しい日に煙草だなんて、
勿体ないことをする人…。

ライターで火を点けようとしたその手に見入っていると

視線に気付いた瞳孔開きっぱなしの瞳が
ふっと私に移り、捕える。


私もそれに気付いて彼の顔へと視線を移す。



やっぱり…

次は私がお説教、ですか…?


少し困り笑いを浮かべながら首をかしげてみる。



そんな私を見て

彼は何を思ったのだろう。



少し黙り込むと

くわえた煙草を外しながらゆっくり口を開いた。




「あのよ…──







…俺が怖いか。」



「へ?」



あまりに唐突かつ率直過ぎる質問に
つい間の抜けた声が出てしまった。


その声にいっそ笑ってくれれば楽なのに、
沈黙など生まれないのに、
彼は何も言わずにその瞳孔が開いた瞳を
不満そうに私に向けただけだった。




彼は一体何を思ったのだろう。



それを彼の視線から読み取ることは
出来なかった。




怖い…─?



先程部下に刀を突き付けていたあの姿、
そして怒鳴り声がだろうか。


それとも、
相手を威圧するようなその鋭い眼差しがだろうか。




それとも…、






正義のためとはいえ
人を殺めることが出来る

貴方のその心が…

だろうか…。




彼が私に質問を紡いだ時のように
私も少し黙り込む。





「貴方のことは全くもって怖くありません。」





そうすぐさま答えられないのは、


そうだ、



確かに私は彼に恐怖を抱く瞬間があるからだ。




初めて出会ったあの日、

人に拳を振ったあの姿。


そして、刀で、銃で、時には素手で
人を殺めることが出来る、

その強靱な精神…。




人々はそんな彼を鬼の様だと恐れている。



私もそうだった。







でも、今は違う。




「…いいえ」




春の空気に紡ぎだす。




「別に土方さんのこと怖くなんかありませんよ。」



私は知っているから…。


貴方が剣をふるう理由。



その御心にはいつも、
護るべき大切な人たちの姿が有るということを…。



「貴方は、優しい人です。」



そして…





私はそんな貴方を

叶うならばずっと傍で支えていきたいと…、


そう思ったんです。



伝える勇気がないから、


代わりに
この暖かい陽気に任せて

そっと肩に寄り添った。


土方さんは何か言いたそうに口を開きかけたが、

少し惑って、


言葉を発する代わりに
私の肩にそっと手をまわした。




己を貫く刀を握り

同士を守る


その大きな手のひらで…。






「土方さん…、」



「ん、なんだ。」




「今日は…絶好のひなたぼっこ日和ですね…!」



暖かい日差しのなか覗き込んだその瞳に



暖かい微笑が浮かんだ…。
 

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