TOV

□生徒会長、良い子じゃなくてもサンタさんは来てくれますか
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「クリスマスプレゼントをくれ」
「何が欲しいんだい?」
「お前が欲しい」
「雪に埋まって本物のホワイトクリスマスを過ごせ馬鹿」
真剣な顔で願望を口にしたら、真剣な顔で一蹴された。
今更軽口の応酬程度では(余程のことがない限り)面倒事には発展しないがフレンの淡白さにはいい方向に発展がほしいものだと思う。

「そもそもクリスマスっていうのはプレゼントをあげるための行事じゃなくてキリストの「すまん俺が間違ってた」
追加、説教の多いとことか小姑みたいなところも。


帰り際になって、マフラーを後ろで蝶々結びされたままのフレンと遭遇した。
「…おいフレン、どうしたんだそのえらく可愛らしいマフラー」
「ああ…エステリーゼ様が結んで下さって…それでユーリに見せに行ってきてください、って」
「………ほう」

フレンにマフラーを外さないよう念を押すエステルの姿が目に浮かぶようだ。
きつい言い方でなくともエステルの言うことには逆らえないフレンを思うと何だか切なくなってくる。

「それで…えっと…もう外していいのかな、これ…かなり恥ずかしいんだけど…」
恥ずかしくともエステルの言いつけを守るお前は犬か何かか。或いはヘタレなのか。ちょっと泣きそうになったぞ。

「外さなくていいじゃねぇか、似合ってるし。」
「似合ってるって言われても嬉しくないんだってば」

エステルの言うことならまだしも俺の言葉にゃ耳も貸さねぇ。
何か外させるのが凄い癪になってきた。

「あっ、ユーリ!」
「ん、どうしたエステル」
「フレン、ちゃんと外さないでくれたんですね。ユーリとも会えたみたいで良かったです」
俺に向かって「フレン、可愛いでしょう?」と微笑んだかと思えばすぐに表情を変え「あっ!」と手を叩く。

「折角マフラーしてるんですし、ユーリのも結んであげます!」
「いや断る」
「遠慮なんてしないで下さい。ほら、後ろ向いて」
遠慮じゃなくて。勘弁してくれとフレンの方をちらりと見れば。
「ユーリ、大人しく従いなよ。折角のご好意なんだよ?」
起こってますかフレンさん。なんか怖いぞ。
結局、案外押しの強いエステルによって俺のマフラーも後ろで可愛らしい蝶々結びにされてしまった。
…エステル、プレゼントの包装か何かと勘違いしてねぇか?

「はい、出来ました!」
「あー…苦しい…」
「うふふ」
「あんだよ。そんなおかしいなら外してくれ」
「そんなんじゃありません!似合ってますよユーリ」
悪いが嬉しくない。どこの世界にマフラー蝶々結びされて喜ぶ男がいるんだ。(いやカロルやおっさん辺りなら状況次第で喜ぶのかもしれないが)

「これでフレンとお揃いですね」
「な、」
「…あぁ…そういえば」
「ふふ、二人ともとっても可愛いですよ」
とてもいい笑顔だった。

「あっ、私リタに呼ばれてるので失礼しますね」
時計に目をやりぱたぱたと駆け去るエステルを尻目に、俺とフレンは立ち尽くす。
マフラー蝶々結びされた野郎二人が並んで突っ立ってるとかかなりシュールな光景だと我ながら思う

「…帰ろうか」
「ん、おう」
今しがた結ばれたばかりだがこれを放置したまま帰る気はない。楽しそうだったエステルには悪いがマフラーを解こうと後ろに手を回した時。

「ユーリ」
「あ?」

フレンが俺の目の前に立ち

「あげるよ。クリスマスプレゼント」

欲しいんだろう?と可愛らしく結ばれたマフラーを指で摘まみながら不敵に笑う。
(どういう意味で言ってるんだよそれは自分の身が惜しくないのかお前いいのか俺の思った通りの解釈してやばい可愛すぎる)

一瞬呆気に取られたが「ありがたくもらっとく」とどうにかこうにか返す。やばい、俺今絶対顔赤い。女子かっつーの。

「…で、お前は何が欲しいんだ?あ、俺も俺をプレゼントーってしてやろうか」
「それはいらない」
「…あっそう」

即答。可愛げない。可愛いけど可愛げがない。

「…なら何がいいってんだ」
むくれてそう言ってから『正しい法によって統べられる平和な社会』とか言われたらどうしようかと思った。こいつが小学生の時の「何が欲しい?」の質問にそう返したのを俺は知っている。

きょとん、としてから楽しそうにフレンが口を開く。
「『君』よりも『君との時間』の方が僕は欲しいな。君を僕のものにしてしまうよりも君が君のままで一緒にいてくれる方がずっと嬉しい」

「そいつはまた…嬉しいこと言ってくれるじゃねーの。…クリスマスと言わずいつだってくれてやるよそんなもの。…それで、だ」

ぐっ、とフレンの腕を掴み、にやり、と笑う。

「お前の『あげる』っていうのはそのままの解釈でいいんだな?」


良い子じゃなくてもプレゼントをくれるとはえらく優しいサンタもいたもんだ。



Fin.
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