TOV

□「あなたが落としたコンタクトはハードですかソフトですか」「すみません今パリンて言ったやつだと思います」
1ページ/2ページ


茶々を入れに、もとい退屈を紛らわしてやろうと仕事に追われる生徒会長様の元へ顔を出しにいってみれば

「ストップ。そこで止まって」

部屋に一歩踏み入れるか入れないかの所で止められた。
床に両手足(膝)を付けた生徒会長たるフレンその人に。

「…何してんだ?お前」

このシチュエーションには流石に驚いた。
仕事は?と思ったがそれより先にとりあえず理由を訊いておく。

「コンタクト落とした。探すの手伝って」

なんとベタな(…ベタだよな?これ)。
正直その面白い格好のフレンを見ていたい気もするのだが(言ったら間違いなく蹴られるんだろうが)、とりあえず床に視線を落とす。
だがしかしあのサイズでしかも透明なものを探すのはかなり困難だろうしかも床ってこの部屋全体って。

目を凝らしながらふと気になったことを尋ねてみる。

「そういえばさ。なんでお前わざわざ視力矯正してんの?そこまで目悪くないだろ」
「よく見えないからっていちいち相手を睨んだりするの失礼だろう。それにちゃんと見えないの僕も嫌だし」

フレンらしい答えだった。視力なくて俺を睨んでくるのはいいのかそうか…って睨まれる原因俺で悪いのも俺なんだけど。(だがそうかそうか、俺の顔をちゃんと見たいと…よせ睨むな。冗談だって)

「じゃあ何でコンタクト?」

それを訊いた途端、フレンの手が止まった。

「………ユーリのばか」
「はぁ?何だよそれ「もういいよ出てって。一人で探す。君どうせ踏むだろうからいても被害大きくなるだけだ」

わけも分からないまま一気に機嫌が悪くなったフレンに生徒会室から追い出される。

「何なんだよ一体…」

釈然としないまま時計を見ればまだ最終下校までに時間がある。
怒った直後のフレンはなかなかその態度を崩そうとしないし、元々生徒会長としての立場からきちっと一日に決めた量片付けなければ帰らない。
それを考えると今自分の背中で閉められた扉が開くのはまだ先だろうと思いながらいつもの通りフレンを待つことにする。

(…普段なら椅子に座ってだとか会話しながらだとかでこんな待ち惚けみたいにゃならないんだが)

廊下の壁にもたれ掛かったまま何もすることなく時間を過ごすのはかなり退屈で。
何かしているより何もしない方が根気がいるのだと身をもって感じた瞬間だった。
しばらくして、コンタクトは諦めたのか眼鏡を掛けたフレンが出てきた。

「…帰らなかったの?」
「何があろうとお前置いて帰る気は最初からないんでね」
「我慢嫌いな君にしてはよく粘ったね」
「そりゃまぁ他でもないお前の為ですから」
「…それはどうも。わざわざなんでコンタクトにしたか思い出せもしない友人の為にご苦労なことだね」
「あん?俺理由聞いてたっけ?」
「…っ、君だよ!」

びしり、と眼前に指を突き出される。

「は…?俺…?…なんで?」
「っ本気で忘れてるんだ…僕は一体何の為に…」

がくり、と力なく腕を下ろし俯いてしまう。

「あー…悪かった、思い出せなくて申し訳ない、反省してる、この通り」
だから教えてくれ、な?と手を合わせて頭を下げる。
ちらりと相手の顔を盗み見れば呆れている、というよりか悩んでいるような様子が伺えた。
なんだか言うのをためらっているような。

「…あんまり口に出して言いたくないから思い出してくれると嬉しいんだけど」
「いやそれが出来ないからこうして…すまん怒らないでくれ」

かなり鋭い目つきで睨まれた。そして溜め息。

「君が」
「…俺が?」
「…君が。……君が、眼鏡邪魔だなって、言った、から…」
「…いつ?」
「なっ、あの…あの、えっと……だ、抱き締める時…とか…あと…あの…」

きす、するときとかに。

散々どもりながら言われた言葉にあぁ、と思い当たる節があった。
確かに俺の言葉だ。言った。…多分。
キスしようとする度にフレーム、特に角が当たったり(レンズが汚れるのが嫌ってのもフレンが言った)と面倒だったので『眼鏡外してコンタクトにすれば?』と言ったはずだ確か。
それまで目に負担がかかるからとか慣れないからとか言っていたはずのフレンがコンタクトをするようになったのも思い返せばその頃からだったような。

(これは…怒らせて当然か…)

迂闊というかなんというか、忘れちゃならんだろう自分。
慣れないことを思い切るきっかけを作った人間がそれを忘れていたとあればそれはフレンならずとも怒るはずだ。

「…さっさと思い出してくれればこんなこと言わなくてもよかったのに」
本当になんて奴だと拗ねた風のフレンが不満げに言う。

「悪かったって。お陰様ですっかり思い出したよ。だからさフレン、キスしようぜ」
「はぁ!?なんでそうなるんだよ!」

やっぱり馬鹿か君は、と声を裏返らせたフレンに締め上げられる。

「いやっ、ほら…仲直りしよーってことで」
「…っ眼鏡は、嫌なんだろ」
「ああ。されてると結構不便なんだよな。…あ、お前、俺といちゃつく時だけ眼鏡外せよ」
「その言い方じゃあ絶対にお断りだよ馬鹿!!!」

もうユーリなんて知らない、と俺を放り出し足早に去っていくフレンをくつくつと笑って見送る。

…さて、追いかけるとするかね。生徒会長様のご機嫌を取りに行かなくては。
(あの調子なら、キスのひとつ位出来るだろ)



Fin.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ