稲妻

□「殻はがされた貝ってどうなるんだろう」「食われるしかないんじゃね」
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「何でお前いつもニコニコしてられんの?」
それが、こうして夕暮れの河川敷で二人並んで座ってお話だなんて少年漫画みたいな状況をつくる発端だった。

なんでそんなこと聞くのと言えば、「お前いつも笑ってるけど心の底から笑ってる感じしない」からだそうで。
馬鹿かと思えばなかなかに鋭いじゃない。


「…雪崩に遭って、ひとりになっちゃった後ね。ずっと人と接するのが怖かったんだ。
 最初は人に触られるのも駄目だった。死んじゃった家族が、何でお前が生きているんだって伸ばして来た手みたいで。
それが本当に怖くって、いっそ死んじゃおうかと思ったけど…それで一人になるのもやっぱり怖くって」
「んー…なんかあんまり理解追いつかないわ、その感じ。
…でもその時に死ぬの怖がって、今こうやって生きててくれてて良かったと思うぜ?」

「お前と一緒にいるの楽しいし」と言って向けてくる笑顔は眩しかった。

「…まぁ、それも…悪くはないんだけどね」
『一緒』だなんて言葉に持っている不信感と嫌悪感は別として、僕も南雲といるのは楽しい。

「で、そんなビビリだったお前がやたら笑ってるようになった理由っての、なんなわけ?」

「ちょっとは言い方とか考えなよ。 …暗い顔してたら、人がやたら心配してくる。それで、僕に手を差し出してくる。
それが嫌でね。 だからいつも笑ってるようにしたの。そうすれば、みんな僕に深入りしてこなかったから。」
「…楽しくもないのに笑ってるとか、辛くなかったのか」

彼には珍しい真面目な顔。明日は雨通り越して雪でも降るんじゃないの。雪は嫌いなんだけどなぁ。

「素直に泣けばいいのに」

続けられたそんな言葉は無視する。
感情ぶつけたって戻らないものは戻らないし、疲れるだけだから、しなかった。それだけ。

「最初の頃は結構きつかった。馬鹿な真似してるなぁとも思ったよ。でももう慣れちゃった。 周りに人がいるとね、自然とこうなるの。」

にこり、と我ながら作り笑いも甚だしい笑顔で隣を見れば、理解し難いみたいな表情をされた。

「僕みたいな可愛い子の笑顔は安売りするもんじゃないと思ってるんだけどなぁ」
「嫌味な奴め。女子の幻想もぶち壊しだな」
「裏で何言ってるかとかは問題じゃないよ。君と違って僕の笑顔は女の子達のオアシスだからね」
「うざっ」
「残念だねー、涼野くんとか豪炎寺くんみたいにモテなくって」
「るっせぇ!余計なお世話だ!つーか可愛げの欠片もねぇ!」

すぐ熱くなるし真っ直ぐなところが面白いね本当。南雲のそういうところは嫌いじゃないよ。

「折角のアドバイスなのに…一蹴するなんて酷いなぁ」
「あーそうかい悪かったな思いやりなくって!どうせ俺は女心もわかんねーような鈍い奴ですよ!」

言い捨てて南雲はがばりと立ち上がる。
「帰る」

え、自分から誘っておいてほったらかし?それはないんじゃない?
ていうか一人になるのが嫌だって相手にそれはないんじゃないのいや寂しいとかそんなことは決してないけどでもなんだか君と話しててすごく楽しくって見捨てられたのかなとか思うとちょっと苦しいだとかそんな、そんなの

「ねえっ、」
思わず南雲の服を掴む。

「あ?」
「あの…一緒に…帰らない…?」

あれだけ威勢のいいこと言っておいてこんな泣きそうだとか本当情けないんだけど。

「…嫌だって言ったらどうすんの?」
「…お望み通り泣いてやる」

それを言ってしまってから半ば後悔した。
にやりと南雲が笑みを浮かべる。

「俺を思って泣くだなんて可愛いじゃねーの」
「……泣くわけないじゃん君なんかのことで!」





Fin.
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