稲妻
□「You are my blanket!」「お断りします」
1ページ/2ページ
スカウトされた地方のメンバー&マスターランク3人も稲妻町に残って雷門中で寮生活。
加えてサッカー部に所属してます。
細かいところは気にしない方向で。
「みんな、この後俺ん家に泊まりにこないか?」
冬休みに入った翌日、かなりの冷え込みを記録したこんな日でも彼ら雷門サッカー部は河川敷に集まって練習をしている。
(「彼ら」というには語弊があるだろうか。今は私もその一員となってしまっているから)
その休憩の合間に円堂が発したこの一言がすべての始まりだった。
「おっ、いいのか?勿論行くぜ!」
「俺も行きたいです円堂さん!」
「ちょっとは遠慮しなよ」
「いいじゃん、円堂が自分から言ってるんだし。あたしも行く!」
「塔子さんが女の子一人で行くのは駄目ですよ!」
「ほなウチも一緒に行くわ!」
「よしっ!行こ、リカ!」
…こんな大所帯受け入れられるとかどんな構造してるんだ円堂家。
「お前達はどうする?来るか?」
「いや、流石にそんな大人数で行くわけには「俺達も行くぜ!な、風介、ヒロト!」
「うん、俺も守の家に行ってみたいな」
「いやだから私は「よっし、決まりだな!」
(どいつもこいつもなんで人の話を聞かない…!)
既に円堂の背中は遠い。
別に嫌なわけじゃないし興味がないわけでもないけれど、申し訳ないと思う。
…とかないのかこいつらは。
兎にも角にも行くと(流れでであっても)決まってしまえば段々と楽しみになってくるのも円堂の人柄のせいなのだろうか。
(、そういえば…)
彼は行くのだろうか。どちらかといえば遠慮がちな印象もあり、さっきの私と同じ判断を下しそうな彼。
「なぁ、吹雪も行こうぜー」
「でも流石にこんな人数…迷惑じゃないかなぁ」
「んなことねーって!」
「何で君が請け負ってるの晴矢」
…何故だろう、彼――吹雪とあの馬鹿が一緒にいると異様に腹が立つ。(ヒロトは別に構わない)
その悶着を聞きつけてか再び円堂が顔を出す。
「なんだ?遠慮なんていらないぜ吹雪!飯も枕投げもババ抜きもみんなでやった方が楽しいしさ!」
あとの二つは絶対なのか。
しかしにかっと円堂に笑って言われれば、不思議と吹雪の不安も和らいだようで、円堂に微笑み返すと「うん、じゃあ僕もお邪魔します」と肯定の返事を伝えた。
所変わって円堂家。賑やかに夕飯や風呂(なんで私と吹雪と財前と浦部を一緒に風呂に放り込もうとしたのか聞きたい。女子二人も乗り気だった)を済ませ、寝る部屋とメンバーの振り分けが開始された。
「あみだと籤どっちがいい?」
「ジャンケンで勝った順に抜けてけばいいんじゃね?」
「ならさっきのババ抜きの勝った順でいいじゃない」
「え、それじゃ俺最後まで残っちゃいます!」
寝る前だろうがなんだろうが賑やかなところがまさしく雷門といえなくもないが如何せん眠くて仕方がない。
早いところ横にならせてほしい。このまま座ったまま寝てしまえそうだ。
「おーい、吹雪―?生きてるかー?」
「うー…、だぃ、じょー…ぶ…ぅ」
…上には上がいた。どう見積もっても大丈夫じゃない眠そうな、というより既に寝てしまっているような声が聞こえる。
「このままほっといたら倒れそうだな…。誰か吹雪と一緒に寝たい奴いるか?」
そんな聞かれ方されたら誰もはいとは言えないと思うんだが。
「うーむ…。あ、涼野、お前も眠そうだし、吹雪と同じ部屋になってもらってもいいか?二人分布団敷いてあるからさ」
「別に構わないよ」
むしろ静かに寝られそうで助かる。晴矢や綱海と一緒になったらどうしようかと思っていたところだ。
「サンキュな!ここの廊下の突き当たりだから、頼むぜ!」
「ああ。…吹雪、歩ける?」
うーとかむーとか唸ってる吹雪をどうにか立ち上がらせ(二人揃って睡魔に負けそうだという笑えない状態でも支えあって歩くことは可能だとは知らなかった)、布団の敷かれた部屋に入れば吹雪は巣穴に入る野生動物のようにもそもそと布団の中に潜り込む。
数秒数える間もなく、寝息が聞こえてきた。…そんなに眠かったのか。
(兎に角これで私も寝られる…)
ふぁ、と欠伸をして電気を消し、布団に入った。
けれどしばらくしても、隣ですぅすぅと規則正しく聞こえる寝息とは裏腹にまるで眠れなかった。眠気は相当酷いのだが。
ふいに、後ろから服を引っ張られる感覚に首だけ捻りそちらを見れば、吹雪が片腕を伸ばして私の服を掴んでいた。
用事でもあるのかと思えば完全に寝ているらしく、目も開いていない。
だがしかし。
(このままでは寝返りすら打てないじゃないか…)
起こしてしまうのは忍びないので、強く握られた指を丁寧に引き剥がす。
握り締めていた5本の指を開かせて吹雪の顔の横に手を置かせたが、しばらくするとまた手探りしつつ腕が伸ばされる空気があったので一人分弱程場所を空ける。
このまま同じことを繰り返して彼を気にし続けていたら眠れもしない。
ごそごそと動いて、寝返りを打って吹雪の方を向きなおした。
と。
「うー…ん…」
吹雪が両腕を伸ばし私の首に絡め、全身でしがみ付いてきた。
…要するに今私は彼に抱きつかれる格好になっている。
「…っ、ちょっ…!吹雪…!」
「ぅぅうぅ…」
押し戻そうと抵抗すれば、嫌がるように(というか本当に嫌がっている)しがみ付いてくる力を強くする。
「なんなんだ一体…」
あれだろうか、抱き枕がないと眠れないだとかそういうことだろうか。
或いはただ嫌な夢でも見ているだけなのか。
「やー…、だぁ…」
ちらりと表情を伺えば、珍しくも眉間に皺を寄せている。
(苦しんでいる…のか…?)
どうしたら良いか分からず、とりあえず頭をぽんぽんと撫でてみれば幾分吹雪が落ち着いた素振りを見せる。
吹雪が大人しくなったのは良いとして、現状をどうしたものかと悶々としていればさっきまでよりも士郎の顔が近い位置にあって。
「ふ、うっ」
「ひぁ、っ…!」
そこで息でも吐かれればこちらの耳にかかるというもので。
(なっ…んて声を出させるんだこいつは…!)
相手気遣っているてどころではなく、なんだか一種の危機感を覚えてきたので半ば本気で吹雪を押して離れようとする。
がしかし。
「うー……」
離れるどころかよりぎゅう、としがみ付かれる結果になってしまった。
唯一幸いだったのは彼が頭を下げ私の胸に押し当てる格好になっていること。
(…なんだか疲れてきた…)
もともと日中に溜まっていた疲れと相まって、この状況を打開することさえどうでもよくなってきてしまった。
もう、起きた時のことなんかもどうでもいい。そうだ、別に私に非があるわけじゃない。
そう言い聞かせて大人しく眠ることにした。
不思議と、今度はあっさりと眠りに落ちることが出来た。
「………、……っ!?」
どたどたと廊下を走る音で目を覚ました途端に、私の意識は一気に覚醒した。否、させられた。
吹雪の顔が、まさに目の前にあった。完璧に、私と向かい合う形で。
しかも事もあろうに、私も私で気がつけば吹雪の頭に片腕を、背にもう片方の腕を回しているという状態だった。
「吹雪!吹雪起きろ!は、な、れ、ろっ…!」
慌てて手を引き、吹雪に離れてくれと言うが寝起きが悪い方なのか目を開いても不思議そうにこちらを見るだけだった。
「……………ほぇ?」
いやだから離れてくれと口早に訴えたものの彼は私にべったりとくっついたまま動かない。
悪いことに足音が段々と近づいて来ている気がするいやもう気のせいではないほら円堂の声も聞こえて
「吹雪ー!涼野ー!朝だぞーっ!」
布団を被ってやり過ごすこともできず、朝にも関わらず一気に脱力感を覚えた。
そのくだりを後で恨み言のように(事実そうなのだが)吹雪に零せば、苦笑まじりに「ごめん、でも涼野くんがいてくれたからこわい夢から抜け出せたよ」と返された。
彼の見た夢は知らない。けれど、不思議と彼の支えになれたという事実がどこか嬉しかった。
Fin.