稲妻

□クリスマスなんだもの一人で過ごすのは寂しいじゃない
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「ねぇ」
「なんだ」
「今日は何の日か知ってる?」
「さあな」
「今日はキリストの生まれた日だよ」
「そうかそいつは知らなかったな」
「…まさかそんなこと言う為に引き止めただなんて思ってないよね」
「悪いがそんなこと言う為に引き止めたと思ってたな」
「クリスマスだよ。今日は、クリスマス。子供が親にプレゼント貰って喜んだり町にたくさんイルミネーションが飾られたり、恋人達はやたらと浮かれてみたり(そう言ったら彼の肩がぴくりと跳ねた)」
「それは楽しそうだな」
「真面目に聞いてよ!」
早く帰ろうと焦る君を捕まえてからずっとこの調子君は僕を軽くあしらって逃げようとする。
腕にしがみつけば慌てて強引に引き剥がそうとするし離れろって言う声は裏返ってるしなんなの今日の君はなんかおかしいよ。

「さっきから酷いよ本当に酷い」
「そうだな悪かったな酷い奴で。酷いついでに離してくれないか」
「嫌だ。わざわざ引き止めたのにそんなあっさり別れるなんて有り得ない」
「お前の理屈は知らん離せ」
「いやだ 。…プレゼントあげるから行かないで」
「怪しい勧誘か何かみたいだぞ」
「知らない。そんなの知らない」
僕はあくまでも純粋な動機で動いてるよただ君といたいそれだけなんだ。

「…そのまま動かないで。あっち向いてて。もし少しでも動けば凍らせて冬の風景の一部にしてあげる」
脅しの効果は大きかった。
僕そんなに怖かったかなぁただ感情を押し殺した声になっちゃったかもしれないのは謝るよ。

「…まだか」
「まだ」
「早くしろよ」
「あと5秒」
「……もうい「いいよ」
くるとこちらを振り返る君の目を真直ぐ見据えてくるりと一回転して言葉を継ぐ。
僕のマフラーは首の後ろでリボンのように結ばれ僕は差し出されたプレゼントのように彼の前へと踏み出す。

「はい、プレゼント」
大事にしてね手放さないでね。
「…貰っても俺は何も返せねえぞ」
「君を頂戴」
「それはちょっと」
「ケチ」
「ケチじゃねえよ」
「ところで自分のものを前にしての独り言でいいからなんであんなに急いでたのか教えてくれないかな」
「…それは。……それは、だな」
なんでそんなにうろたえるのなんで赤くなってるの?

「世間でいうクリスマスだなんて恋人だとかなんだとかにとっちゃあ一大事だってのに俺はあいつにやれるものなんもないんだよなだから慌てて何か見繕って来ようってのにあいつは丁度その痛いとこちくちく刺してくるしこのままじゃあいつに何もしてやれないまま終わっちまうどうすりゃいいんだ。…なぁ?どうすりゃいいよ、俺は」
息継ぎもなく言い切る彼に絶句する。
だってそんな風に僕のこと思ってくれてるなんて知らなかったんだああどうしよう頬が熱い今の僕は彼よりも赤くなっている自信がある。

「…僕のこと思うなら、さ」
「…おう」
「プレゼント受け取って、それで、僕のそばにいてよ」
「でも俺は何もやれるもんないんだよ」
「物がなくたって構わない、全然構わない。君がいてくれるならそれだけで他にはなにもいらない」



Fin.
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