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□虫歯の活用法
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ファーストキスは虫歯の味だった。










まずは一口、甘い香りと共に淡く揺れるそれを口に運ぶ。
当然ながらおいしかった。


「あぁ、こういうのが幸せっていうのかな。ねっ、アツヤ」
「……………………そーかよ」


ひどく拗ねたような……いや、実際拗ねているだろうアツヤの目の前で僕はプリンを頬張る。
我ながらひどい仕打ちだと思うけど、でもまぁ、ひとりで食べるのにも気が引けた。

ごめんね、アツヤ。


「くそっ、なんだって俺だけが虫歯になんか……!」
「だから言っただろ?寝る前にお菓子食べちゃだめだって」
「ちゃんと後で歯磨きしたって」
「僕知ってるんだよ、アツヤが歯磨きだって言いながらうがいしかしてないこと」
「ぐ、っ」


だからアツヤの自業自得、そう言い聞かせて僕はふたり分のプリンを食べる決心を固めた。
アツヤの虫歯完治を待っていたら賞味期限が切れちゃうし、そうなるぐらいなら僕がおいしく食べた方が絶対いいはずだ。
別に、いつもふたりで分けてたから僕だけひとりの倍を食べることに罪悪感があるわけじゃないから。

…………いや嘘、今の嘘、ちゃんとあるよ罪悪感。
だから自分に言い聞かせてるんじゃないか。


「大体、なんでちゃんと歯磨きしないのさ」
「歯茎が痛みそうなんだよ」
「僕達まだ中学生だよ?なんでそんな心配してるの………ってゆーかそれってただアツヤの磨き方が悪いんだよ」
「うるせっ」


もう、わがままなんだから。

無言でプリンを食べる僕を悔しそうに睨みつけるアツヤを無視して、僕はプリンをひとつたいらげて息をついた。
(あ、そっか、もうひとつあるんだった)


「…はぁ……なんかねぇかな…」
「何が?」
「虫歯でも甘いモン食える方法」


そんな都合いい方法あるわけない。
痛みをこらえて無理に食べればいけるだろうけれどそれはおそらく辛い方法だろうし、それよりも痛みに負けて味なんかわからなくなりそうだ。

皿に出したばかりのプリンと真剣に悩むアツヤを交互に見比べて、そっと笑みを零す。
泣きながらプリンを頬張るアツヤが簡単に想像できたからだ。

(虫歯治ったら、僕のおやつでも分けてあげようかな)


「あ」
「ん?」
「思いついた」
「うぇ?」


口の中に放り込んだプリンがとろけていく。
顔を上げたら目の前にいたのはもちろんアツヤなのだけど、彼が思いついたというその方法を理解するどころか予想する前に、僕の口はアツヤのそれで塞がれた。
味なんかわからない。
だってアツヤは今虫歯で、味気あるものをほとんど口にしていないんだから。

だから、つまり、えっと……!


「ん、甘ぇ」


ポソリとそう呟いて、離れる前にアツヤは僕の唇を舐めてから離れていった。
そしてその直後のどや顔が、







「なかなかよかったぜ、兄貴」


これだよ!









(アツヤのバカッ!僕が虫歯になったら同じことしてやるからね!)
(兄貴とキスできるんだから俺に得じゃね?)
(あっ)


僕も結構、バカかもしれない。




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初のアツシロということでいらっしゃいましたが、素敵な小説、心から感謝です…!
本当にありがとうございました!!!

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