稲妻

□きなこもちチョコってあれチョコと定義していいもの?
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突然手を握られた。
じっ、と僕と目を合わせて無言になるヒロト。
じーっ、と僕の目から視線を逸らさないまま手を握る力を強めるヒロト。
じぃいっ、と僕の目をより奥まで覗き込んで顔を近付けてく―

「ってうわぁぁあ!!!」

一種の金縛りに遭っていたが、はっと我に返って握られていた手を全力で引き抜く。
蛇を前にした蛙の気持ちになりながらヒロトの様子を伺って―物凄く後悔した。


「ふ…ふふふふふふ…今チョコを持っていないすなわちじつくり俺の為に吟味してくれているということだよねああもしくは手作りしてくれるのかな?楽しみだなあ楽しみだなあ楽しみだなあ君は俺に何をくれるんだろう!」

どうにか落ち着けと説得したいところだが、到底無理そうだった。
目の前の赤い奴は一人どこかの花畑にでも旅立ってしまったような空気だ。
これはまずい。

誰か助けてください。

「あ、あのね?僕君にチョコあげるつもりとかなくって」
「うんうん、楽しみに待ってるよ吹雪君!じゃあね!」

僕の言葉はまるっと無視してとても爽やかに去って行くヒロト。
…わざとなのか本当に聞こえなかったのか判断しかねる。

何が解決するわけでもないと知りながら、はぁ、と溜め息をひとつ。
あげてもあげなくても面倒なことになりそうだと思うと、体も重くなるようだった。

「吹雪」

くい、と袖を引かれる。
いつの間にかすぐ横の椅子に座っていた涼野君が、上目遣いに僕を見ていた。
ちなみに座り方は本来の用途とは前後逆、背もたれに腕と顎を乗せる形。

「…悪いねあいつ。馬鹿で」
「あぁ…うん、でも明るくて楽しい人だよね…」
馬鹿、と言われた部分を全肯定するのもなんだか気が引けて(本心では完全肯定だけど)、最後の方はなんとなくぼかしてみる。

「いいんだよ別に、変な気回さないでも」

子供のことを語る疲れた親(どちらかといえば母の方)のような顔をして、溜め息混じりに返される。

「馬鹿が世話をかけたのは本人に代わって謝るよ。ただ、ひとつだけ言いたいことがあるんだ。いいかな」
「うん、何?」
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