夢小説

□臆病な君に耽溺
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勝手知ったる不道徳な手が慣れた手付きで胸元のボタンを外していく。
流れるように片手で小さなボタンを外していくエダがそう器用なのは元々のようにも思えるが△△には嫉妬の要因にしかならない。
何度も体を重ねていてもこんな嫉妬にまみれた心を持ち続けているのは△△が特別嫉妬深いわけでは決してないはずで、それもこれも二人がちゃんとした関係でもって繋がっているのではないから。

好きだなんて言われたことないし、寝てるからって付き合ってるとは言えない相手。

――私以前の履歴には一体何人の男女が連なるのだろうか。

この人だったらレヴィともしてる可能性は大アリで、それが犬同士がじゃれあうようなノリでそこに何の意味もなかったとしても、悔しいかな惚れている△△はやはりどろりとした感情を湧き上がらせてしまう。

だってレヴィはああ見えて、本人が自覚してるかは別として、気に入ったものは依存や執着しちゃうタイプだと思う。
でもしてるとしたら、エダは器用だから見ててもわからないけどレヴィなら見てればわかるものだよな・・・。
なんにせよ、こんな風に思いを巡らせてみたって今のところ決定的証拠は露呈されてないし、カマを掛けるとか積極的な行動に移したことは一度たりともないのだけれど。

こうして悪友二人の関係に思いを巡らせている間にエダは△△の上半身を裸にしていた。
重力によって崩れる乳房を掴み揉みしだく。

「何考えてんだよ」

「エダの性交歴」

「何だ?ヤキモチ焼いちゃってんの?」

「ボールギャグ噛まされてるとこ見たかったなあと思って」

「ざけんな。二度とごめんだ」

苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる様子に、心底嫌な体験だったんだろうと笑ってしまう。

「笑うなテメェ」

「ヨかった?」

「ばっか。ロリータの趣味はねえっての」

あの一夜が明けた朝も聞いたけどどこまでされたのか。はっきり否定しないってことはそういうことなのか。
命を握られていたとはいえあんなチビッ子にまでいいようにされたと思うと癪(しゃく)である。

胸の奥のわだかまりに任せて首に腕を回すとエダは口角を上げる。力を込めるとそれを待っていたかのように△△との距離を縮めた。

視界がエダでいっぱいになる直前、一瞬見える彼女の目には仄暗い熱が灯っている。
その背景に愛情はなくて単なる情欲しか詰まっていなくても、この瞬間だけは自分だけがエダを独占しているのだと実感できるから△△は好きだ。ぞくぞくする。

芯を持ち始めていた突起を摘まれ、こねられる。

「っん…」

直接的な刺激を与えられると現金な△△の心からはさっきまでの人間的な感情は消えていき野性的な性の色が占めていく。

口唇を押し付けられ熱い舌で下唇を舐められる。唇が徐々に濡れていくことによって滑りが良くなり心地良さが増す。
弾力あるエダの唇を味わいたくて△△も舌を伸ばした。リップ音が、吐息が、温かさが△△を満たす。
剥げかかった口紅が完全に失われそうなほど強い力で吸われなぞられる。舌を絡め合っていたのも主導権を握られた。
自然と深くなっていくキスに次第についていけなくなる。

ふとすると自分よりもエダの方が相手を求めてるのではという錯覚すら覚えた。
だけどまさか、激しいのはアメリカ人だからじゃないかと思う。だってこのエダがそんな、戯れの関係に必死になるなんてありえない。

結局はいつもペースについていけなくなった△△が肩に軽く手をやって長いキスを終わらせる。

「テレビ消そ」

放送終了時間を過ぎて砂嵐になったブラウン管が部屋を青白く照らしている。
二人だけで飲むときは多少なりとも期待していて、初めはお互いそんな素振りを見せずに進めるのに、気分が良くなってくるとテレビを見てる振りして擦り寄っては寄り掛かったり。今日もそんな風にして始まったからつけっぱなしだった。
同じ考えだったらしく、エダは足元の方に転がっていたリモコンを拾いテレビの電源をオフにした。
途端に部屋は静かになって二人きりの世界が出来上がる。

エダがサングラスを外し、隠されていた蒼い瞳が晒された。
△△は珊瑚礁の海のように透きとおり、何もかも見透かしてしまいそうなこの目が大好きだ。
隠すのは勿体無いと思うけど、かと言って誰彼かまわず見せられるのも嫌だ。
もしサングラスがなければ四六時中見とれる羽目になるし他の連中もそうなるだろうから、結局はこの時の他にシャワー中と寝る時以外は決して外さない今のスタイルがベストなのかも、という考えに至ったのはいつだったか。

バツの悪さを誤魔化すように笑った。
彼女に裸の瞳を向けられると、相手は同性なのに男との時よりも自分がしおらしくなっているのをふと自覚したのだ。
そんな△△にエダもいつものような不敵な笑みを浮かべる。

ここは友情の延長線上。もしかしたらこの先に望む関係があるのかもしれないしないかもしれない。
あったとしてもずっとここに停滞したままで永遠に辿り着かないかもしれない。
もしくは、いつの間にか自然消滅という終止符も、ある日突然どちらかが運の悪いことに通りで骸となっていたという終止符も有り得る。
だとしても悪徳強欲腐敗に満ちたこの街で刹那に生きる人々の一員に過ぎない二人は、今日もこの関係を問い質すのではなく。
目の前の幸福だけを感じるために悪友との夜に身を沈めた。



臆病なに耽溺


***
'12.8.25

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