夢小説
□指先で染め上げて
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紙の上をペン先が走る音を聞きながら本のページを捲る。昼下がりの大尉の執務室に、部屋の主と二人きり。
ペン先とページが立てる音だけがする静かな空間は読書をするにはうってつけのはずだった。
だけど、何度も読んだお気に入りの本なのに今日に限っては目は文字の羅列を滑るだけ。しないようにはしていても目線は大尉の方へと行ってしまう。
何度目かに盗み見した大尉は相変わらず処理すべき大量の書類に向き合っていて、こちらのことはちっとも気付いていないようだった。
僅かな不満を小さな溜息に乗せてそっと吐き出した。文庫本をぱたんと閉じて腰掛けていたソファに横になる。
自室に戻ろうかとも思ったが、大尉と同じ空間にいたかった。
一眠りすれば気分も落ち着くだろう。
そう思って目を閉じた。
――――
―――
―
人の気配を感じて目がパチリと開いた。視界に入ったのは上からこちらを覗き込む大尉。
「あら。起きちゃったの」
「あ…すいません」
眠りから覚醒することがなぜ大尉の期待に外れることなのかはわからなかったけど、頭がまだ眠ったままだったこともあって意味もわからず謝っていた。
ふと時計に目をやると、数時間は眠ってしまったらしい。窓から差し込む光は傾きかけていた。
「お仕事、終わったんですか?」
「ええ。さっきね」
「お疲れ様です」
「全く、無駄な書類ばかりで嫌になるわ」
確かに大尉は心なしか疲れた顔をしている。
ロシアンティーでも入れてあげようと身を起しかけたその時、大尉は私の上に乗っかってきた。
「……で、△△はどうしてほしかったのかしら?」
「へ?」
質問の意味がわからずきょとんとしていると大尉はニヤリと笑って言った。
「あなたが昼寝を始める前、ちらちらこっちを見ていたでしょう。……あの日が近いからかしら?」
「な、大尉…!」
湧き上がっていた欲は隠していたつもりだったのに、大尉にはしっかりバレていたらしい。しかも自分の周期をしっかり把握され、あまつさえそれによる欲望を見透かされていたのかと思うと、とてつもない羞恥心が襲う。
更に大尉は追い打ちをかけるようにこんなことを言った。
「でも、そのせいだけじゃ…ないわよね?」
くい、と顎を持ち上げられ、親指で唇をなぞられる。
大尉は全て暴露せざるを得ない状況に持ち込むのが上手い。
生娘だったら真っ赤になってすらすらと白状してしまうだろうけど、私はこの程度では屈しない程度にはそれなりに経験を積んできている。
「言ってごらんなさい?」
「な、何もないですよ」
「へえ。あの日がどうとかは否定しないってことはやっぱりそうだったのね。いやらしい子」
「なっ!?…な…っ!」
あっけなく誘導尋問に引っ掛かった。
簡単だと言わんばかりに笑う大尉を見て、私は頭を渦巻く悔しさに何も言い返せない。
「正直に言いなさい」
ねっとりとした笑みを浮かべて太腿を撫で上げられ、背筋がぞくっとする。
「正直も何も、他には理由なんてないですってば…!」
「あくまでしらばっくれるつもり?じゃあ体に聞いてみようかしら」
そう言うと大尉は流れるような鮮やかな手つきで私の服を剥いでいく。
確かに生理前でちょっとムラムラしてたのは認めるけど、もう一つの理由は絶対に言いたくない。
というかそれよりも。
「た、大尉…せめて鍵かけないと…」
「何か問題でも?」
あれよあれよという間にあらぬ姿にされたけれど、ここは執務室。軍曹や他の同志たちが訪ねてくる可能性は十分にある。せめて扉に施錠してほしいところだ。
「誰かに見られたら…!」
「ここは私の部屋よ、誰も勝手に入ってきたりはしないわ」
「それはそうですけど、でも、」
「欲しがりさんは余計なこと考えずに大人しく感じてなさいな」
「欲しがりなんかじゃ…――っあ!」
反論しようとしたところに胸の頂を摘まれて思わず声が上がる。
そうやって一度私を牽制してしまえば、後は大尉の思うが儘。大尉の両の爪先はそれ以上頂には触れずに周りをそっと巡っている。
コンスタントに与えられる微かな刺激はもどかしく、それ故に私の体の奥の燻りを呼び覚ます。
「っ大尉…」
「もう固くなってきてるわよ。いやらしい体ね」
「……っ」
体が感じる切なさに大尉を呼ぶと、返ってきたのは蔑みの言葉。
そんな言葉を掛けられて悦びを感じてしまうなんて、いつの間にそんな女になってしまったんだろう。
「大尉…」
「何かしら」
指はずっと変わらぬコース上を動くだけ。大尉は涼しげな顔で続きを促す。
「あの、その……」
「なあに?はっきり言わないとわからないわよ」
言いたいことなんてわかっているくせに大尉は私に言わせようとする。
どんなに渋っても、こういう時はちゃんと言えるまでいくらでも待つのが大尉だ。初めの頃は指が欲しいことをどうしても言えなくて、20分近くも焦らされていた経験がある。
根比べで大尉に敵うはずもない。そしてちゃんと言わないといけないことも経験上わかっている。
直接的な言葉は今だって苦手で、だから大尉から向けられる視線から逃げるようにそっぽを向いて声を振り絞った。
「…乳首…触ってください」
「あら。今日はいつもより素直じゃない」
楽しさが増したのか幾分嬉しそうに言うと、ピン、と頂を弾いた。
「ひぁっ」
「いつもより我慢が効かない程度には余裕がないのね」
頂をコリコリと捏ね回されたり、潰されたり、弾かれたり。ランダムに変わる刺激にどんどん欲が昂ってくる。
下半身が疼いて足を擦り合わせていたところを、大尉の掌が割って入りこんできた。スカートの中へ侵入したその手は邪魔な布地をまくり上げると、ストッキングを一気に引き下ろす。
そして躊躇うことなくショーツのクロッチに触れる。そこを確認した大尉は嗤って言った。
「下着までグショグショじゃない。はしたない子ね」
「んっ…、大尉…っ」
投げかけられる言葉にすら感じてしまう。数時間前から望んでいたものはもうすぐ近くまで来ている。
下着も脱がされ、二本の指に愛液を絡めるとゆっくりと中に差し込まれた。
元軍人の手とは思えないほど美しくしなやかなそれは私の中を縦横無尽に荒らして回る。
「あぁっ…あっ…ん」
「聞こえてる?こんなに音がするわよ」
大尉の言う通り、指を動かされる度にグチュ、ジュプ、と耳を覆いたくなるような音が自分の足の間から聞こえる。
「いや…っ」
羞恥と快楽に身を捩る私を大尉は楽しそうに眺め、絶妙のタイミングでイイトコロを擦る。
「ひぁあ…っ!」
体を支配する快楽の波に翻弄される。その深さは到底見えなくて怖い。
私は大尉のスーツを握りしめた。
鎧のように彼女の身を包むそれは固く、どんなに強く握りしめても大尉を捉えられないような気がして心許ない。こんなに近くにいるのに、大尉の肌が遠い。
大尉の肌も私と同じように熱くなっていたりするのだろうか。触れ合いたい。
そう思っても彼女が服を脱ぐことは滅多にない。だから少しでも体温を感じるために首筋に顔を埋めたくても、私程度が引き寄せる力では大尉との距離は縮まらない。
大尉が私の本意をわかっていないわけではない。わかっていて、悶える私を見て楽しんでいるのだ。
「あっ、あぁん」
「外にバレないか気にしていたくせに、そんなに絶え間なく声を上げたりしたら聞こえるわよ」
「だっ、だって…」
「それとも誰かに聞かれたいのかしら?」
「そんなこと…あっ」
秘芯を擦られ、最後まで言うことは許されなかった。
「さぁ、どうして発情してたのか、言ってみなさい」
発情。そんな獣のような例えをされることに被虐心がくすぐられる。
「や…」
「言わないといつまでもこのままよ?」
「いやぁ…」
大尉は絶妙な加減で私をコントロールしていた。
イけそうでイけない。欲しい。この先に待つところに早くたどり着きたくて、でもなけなしの理性が私を引き留める。
そのジレンマにふるふると首を振って訴えるも大尉は頑なに許してくれない。
そして指先で蕾を擦っては止め、擦っては止めを繰り返す。
「――も、もう、ダメ、だめ、あっ…あっ!」
「ほら?」
白状しろ、と言わんばかりに目で、言葉で、指で、促される。堪えきれなくてついに私は口を開いた。
「え、AVのチェックで…っ!」
定期的に発生するそれは大尉が事務処理の前に行っていた仕事。何十本ものビデオに目を通す作業は気が滅入るもので、大尉はげんなりしながら画面を眺めていた。
でも私は彼女の後ろで自分の仕事に集中しているふりをしながら、画面の中で繰り広げられる行為に感化されていたのだ。
もちろん毎度そんなことになっているわけではない。しばらくご無沙汰だったこともあって、たまたま、タイミングが重なって気になってしまったのだ。
「悪い子ね。私は仕事でやっているのにあなたはその横で濡らしていたのかしら」
「ごめんなさい…っ」
「どれが好みだったの?詳しく教えて頂戴」
「や…もう許して…」
「ねぇ、指が痛いくらいに締め付けてくるわよ。こんなこと聞かれて感じてるの?」
「あぁっ…」
繰り出される詰問に堪えられない。身を捩っても大尉から逃げられはしないのに、せずにはいられない。
「いやらしいわね。そんな子にはご褒美はあげられないわ」
大尉は白々しく告げて指を抜いた。
「…え…っ」
中に埋められていたものが失われ、物足りなさを感じた私は戸惑いを隠せない。
大尉は入口に指を当て、くるくると円を描くようになぞり始めた。こちらを見つめて妖艶な笑みを浮かべている。
昂りが治まらないそこは未だ敏感で、大尉の指を貪欲に求めていた。
「あっ…大尉……っ」
「物欲しそうね。そんなにここにこれが欲しい?」
指で入口をノックするかのようにトントンと叩く。
「っ……」
「ヒクヒクしてるのがよく見えるわ」
「んぅ…大尉…」
「なあに?」
「欲しい…、大尉の、入れてくださ…っ」
「どこに?…ああ、ここかしら」
つつ、と後ろに移動した指にその穴をくっと押される。
「ち、ちが…!ここ、ここにっ」
慌てた私は自らの指で秘唇を広げて見せる。痴女のような姿だろうが、そんなことに構っていられる余裕などなかった。
早くイかせてほしい。それだけだった。
大尉は口の端を上げて笑うと無言で指を突き差した。
「ひぁぁっ!」
中では容赦なく指が踊り、静かな部屋にじゅぷじゅぷと水音が響く。追い立てられるように上り詰めていく。
「――大尉、大尉っ、だめ、だめ、…イっちゃうっ」
「イきなさい」
絶頂が近づいてくる。快感に脳が焼き切れそう。
半ば叫ぶように大尉を呼んで力任せにぎゅっとしがみ付いた。
「大尉…たいいっ、好き、すきぃ…っ」
「私もよ、△△」
大尉は深く指を突き込むと同時に蕾を強く擦った。
「―――あぁあああっ!!」
今日初めて甘い言葉を耳元で囁かれ、私は部屋の外に漏れてしまうんじゃないかというほどの高い声を上げて、達した。
――――
―――
―
さっきまで乱れていたソファの上、気怠い体を大尉に預ける。
大尉は私の髪を撫でてくれていて、とても心地がいい。
「お望みには叶ったかしら?」
「う、ぁ、……ハイ」
返答に困りつつも蚊の鳴くような声で答えると、大尉は「それはよかった」となんてことない声色で返す。
ふと思い出し、気になったので尋ねてみる。
「そういえば、私が起きた時残念そうにしてましたけど、どうしてですか?」
「ああ。寝顔見てたらイタズラしたくなっちゃって。そしたらあなたが目を覚ましたから」
しれっとした顔で答える大尉。
あの時目を覚ましていなかったら眠ったまま色々されていたのだろう。起きて正解だったのか、それとも起きない方がマシだったのか。
顔を引きつらせているとそれに気付いた大尉は少し笑って、宥めるように柔らかなキスをくれた。
***
15.05.19