夢小説

□カウントダウンは始まった
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イエローフラッグの一角。二人で飲みに来たのに、エダは男から声を掛けられてここから少し離れたテーブル席でそいつらと盛り上がっていた。
私だけ声を掛けられなかったわけじゃない。よく知りもしない男たちと酒を酌み交わしたくないのだ。奢ってもらえるにしてもできれば御免被りたい。エダは男好きだから楽しいだろうけど私はちっとも楽しくない。
ただ、こう言ってはいるけど毎回こんな人付き合いの悪い態度を取っているわけじゃない。誘われたら一緒に飲むこともちゃんとある。だけど今日はそんな気分にはなれなかった。
どこへ行っていたのか、二週間程この街から消えていたエダがふらりと戻ってきて、今日は久しぶりに二人で盛り上がろうと連れ立ってきたのだ。だから安いナンパに気前良く答えるエダに呆れて、不服さをアピールするために輪に加わってやらなかったというわけ。
バオを話し相手にグラスを傾けていると、不機嫌の元凶がツカツカと寄ってきてカウンターに荒っぽく寄りかかった。


「よーォ△△、お前もこっち来いって。ポーカーやるから。あいつら意外と話せるぜ?」

「やだ。どうせ負けるし」

「まぁお前弱いもんなぁ」


カラカラと笑うエダを睨みつけるも全く効果はない。それどころか、わぁコワーイなんておどけている。


「お前も一緒に飲むと思ったから誘いに乗ったのに。そしたら来ねーしよ」


私を引き入れるがためのポーズなのかどうか、不満気な声を出すエダ。
――二人だけで飲みたかった。
そう素直に言えばいいのに私の口から出るのは可愛げのない言葉。


「男と楽しんでるならそれでいいじゃない。今夜のお相手は…あいつあたり?でもセックス下手そう」


横目で品定めして一番顔がマシそうな男を指差す。
もうヤケクソ。自分で言っておいて男の上で腰を振るエダを想像して胸糞が悪くなる。


「ご機嫌斜めだねェ。もしかしてジェラシー感じちゃってる?」

「はっ?アホでしょ」

「△△はマジわっかりやすいな」

「はあ?だから違うってば」


エダはニヤニヤしながらこっちを眺めている。私の気持ちなんてこの女には筒抜けだろうに、距離を置くことも縮めることもせず、私をからかっては面白がるのだ。
それがエダの答えなのだと受け入れはしたけれど、時々その仕打ちにつらくなったりする。


「△△がはあ?とか返す時は図星。聖書にも載ってるんだけど知らねぇの?」

「うるさい。もうあっち行け」


徐々に苛立ちが高まってきているのが自分でもわかる。こんな可愛げのない自分もう嫌だ。


「△△と話したくて呼びに来たのに」

「ふーん。私これ飲んだら帰るわ」

「つれないねェ。じゃあさ、特別にアタシの秘密一個教えてやるよ」

「どうせまたつまんないこと言うんでしょ」

「△△、」


急にエダの声色が変わって私は思わず息を飲んだ。この人はいつも調子がいいからたまに真剣な声を聞くとドキドキしてしまう。
そんな私も見透かしているのだろう、エダは耳元で囁いた。


「ホントはお前にしか興味ないって言ったら?」


耳元でというより耳に口をつけてと言った方が正しい。
エダの柔らかな唇と吹き込まれる吐息が悪いのだ。思わず体を跳ねさせてしまったのはエダが悪いのだ。
ああ、こんな声でもっと口説いてほしい。完全にほだされてしまいたい。
そんな風に思ったけれど、私はふにゃりとなりそうな自分を奮い立たせる。
ダメだダメだ騙されちゃ。エダ飲んでるし。いつもみたいにおちょくられてるだけに決まってる。
私の気持ちを知っていてわざとそんなこと言うんだ?この軟派女め。


「面白い冗談だね。面白すぎて笑えないわ」


顔が赤いのがバレるのを恐れ、グラスに浮かぶ氷を見つめて吐き捨てる。
それなのにエダはやけに真剣な瞳でこっちを見つめ。


「なら、好きだって言ったら笑う?」

「えぇっ?」


予想外の追撃に素っ頓狂な声を出して振り向いた。
酒場の喧騒の中で二人見つめ合ったのは僅か数秒。サングラス越しにでもわかる、揺るぎない視線。
そしてエダは言葉を返す暇さえ与えずに私の髪をわしゃわしゃとかき混ぜて、頭にキスなんて落として、それからまたふらふらと男共の方へと戻っていった。


「すぐに金巻き上げてくるから、そしたらうちで飲み直そうぜ」


そんな言葉を残して。そしてキスされた後にまた耳元で言われたのは。


――あんまりあからさまに好きって言われるとめちゃくちゃにしたくなるだろうが。


周りでは馬鹿な男達が喧嘩を始めて怒号やグラスの割れる音が響いている。雰囲気もへったくれもありゃしない。
でもその割に今の口説き文句が私の中でリフレインしていて、こんな環境でも効力を発揮するエダのタラシぶりは本物と認めざるを得ない。真っ赤になった私の顔を見ずに向こうへ行ってくれて本当に良かったと思う。
オーケー、騙されたつもりで乗ってやろうじゃない。
エダはポーカーがめちゃくちゃ強い。それで高い酒を買って帰っても今夜はろくに口をつけないかもしれない。
だから景気付けに度数の高いウイスキーをバオに注文した。酔っぱらいでもしないと素直になるのは到底不可能だ。
さて、私が出来上がるのとエダが大金をせしめてくるのはどちらが早いだろうか。






Title "おまえにしか興味ない、って言ったら?" 
by majolica


***
15.07.23

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