夢小説

□特別なのだと思っていいですか
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アメピン、Uピン、ヘアゴム、バレッタ。
アイテムを駆使して髪をまとめ上げ、最後にヘアミストを振れば完成。


「ふっふっふ。やっと伸びたなー」


鏡の中の自分に微笑んでみる。数か月かかって伸ばした髪。
そろそろ丁度いい長さになったと思って可愛くアップにまとめてみた。
というのに。


「わぷっ!ちょ、燈やめてよー」

「ほんと△△は面白いな!」


部屋の外に出てまず最初に顔を合わせたのは燈。
最初は「お、可愛いじゃん」なんて気付いてくれたけど、ちょっと話が盛り上がったら笑いながら私の頭をわしゃわしゃとかき混ぜてきた。
それに対して抗議するも聞き入れてもらえない。


「もー、髪がぐしゃぐしゃだよ」

「大丈夫だって変わんねーよ」

「せっかくセットしたんだからやめてよね!」

「……おい。嫌がってんだろ」


ヤメロ、と突然後ろから聞き慣れた声がして振り返ると、そこにいたのは私の憧れの人だった。


「女は頭撫でりゃ誰もが喜ぶと信じてんのか。マジでアホだな」

「な…っ!」


その人――ミッシェルさんは心底呆れた、というよりはもはや嫌悪の表情を浮かべていて、その様子に酷く衝撃を受けたらしく燈は固まっている。石化したとはまさにこのこと言うんだろう。
苦笑していると、彼のことは無視するミッシェルさんに「△△」と名を呼ばれる。
ミッシェルさんに視線を戻すとすっと手が伸びてきたので反射的に目を瞑る。


「ここ、ほつれてるぞ」

「えっ。あ…」

「前向いてろ」


髪型のことだと気付いて目を開くと、彼女は私の後ろに回るところだった。
ミッシェルさんに直してもらうなんて私にはもったいない!
そんな気持ちを言葉にする暇もなく彼女は私の髪に触れて、私は大人しくじっとしていることになる。
取れかかっていたらしいUピンを抜いて、ほつれた髪を直してくれる。
垂れた耳元の毛束を掬う薬指が耳の裏をなぞって、私は一際身を硬くした。
通常の人間の何百倍もの腕力を持っているとはとても思えない程優しい手つき。
ミッシェルさんがこんな至近距離にいるだけでもなんだかドキドキするのに、髪に触れてもらっているということで鼓動がますます早くなる。
マーズランクも高くなく、特にぱっとしない私にオフィサーである彼女がこんなことをしてくれるなんて。
今回だけじゃない。いつも燈や艦長には手加減ない接し方をしているのに対して、何かあると優しく声を掛けてくれる。
こんな距離感で私に接してくれるのはやっぱり同性だからという単純な理由か、それともそんなに危なっかしいと思われているのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていたけれど、後ろが見えていないことで指が髪に差し込まれる感覚を敏感に捉えてしまうらしく、全神経はそちらにばかり集中する。
頭に触れる指先は細く、暖かくてずっとこうしていてほしいなんて思ってしまう。
憧れている人に後ろを任せて何かをしてもらうことが、こんなに心地良いものなのだと初めて知った。


「できたぞ」


気付けば長かったようで短かった時間は終わり、ミッシェルさんの指はすっと離れていった。


「あ、ありがとうございます」


さっきまで私に触れてくれていたあの指が名残惜しく、恋しく思える。
でもそれはなんだかいけないことのようで私は彼女の顔を見られなかった。


「いい香りだな。それにその髪型、似合ってるぞ」


ミッシェルさんは柔らかく微笑んだ。
そして髪型が崩れないように頭を優しくぽんぽんとされる。


「っ、ありがとうございます…!」


その笑顔にとろけそうになる。
もしかしたら、私はミッシェルさんにそう言ってもらうために頑張って髪をセットしたのかもしれない。


「せっかく直したんだ。ニコーってしてみろ」

「えっ。あ。いや、そんな、」

「…うん。可愛いぞ」


いつも厳しい顔をしているミッシェルさんがまたほんのり柔らかい表情を見せてくれるから、それに見惚れて思わず顔が緩むと思いがけない言葉を貰えて。
私はもう天にも舞い上がりそうな気分でこの場を後にするミッシェルさんを見送った。



――――
――



△△はぽけーっとした顔でミッシェルさんを見送る。
こいつ完全に俺の存在忘れてるだろ。


「ミッシェルさんに褒められちゃった…」

「よーござんすね」


そんなこと呟いてるその横顔、頬が染まってるってことに気付いていないのかねこいつは。
端から見たらまるで恋する乙女だってのに、当の本人は自分の気持ちをまだ自覚していないらしい。


「…もしかして私ってミッシェルさんから割と気に入ってもらえてたりするのかな…」


はっ?割と??ケンカ売ってんのソレ???
あれで「割と気に入ってる」のレベルだったら、俺はどんだけ嫌われているのだろう。
ミッシェルさんって普段手厳しいからそれだけに、△△と接している時の様子を見ると△△のことは他と違って特別視してることがよくわかる。
俺ら男に対して容赦のなさを発揮するのはもう慣れっこだけど、女子に対してだって△△を除いてはあんな風に容易く自分から触れたり微笑みを振り撒いたりしない。
なのに、相当鈍い△△はそのことにも気付いていないらしい。
まあとりあえずなんか癪だからシカトしよう。単なる独り言っぽいし。


「あーあ。俺にはあんな顔見せてくれないのにねぇ…」

「そりゃあんたが燈だからでしょ」

「なんだと!」


調子に乗ってキャッキャと笑う△△はもう気分はダダ上がりらしい。
あまりに両片思いな二人を見ていると、いいからさっさと付き合っちゃえよってイライラしてくるな。
仕方ないからその負のエネルギーを動力に替えて、鼻歌でも聞こえてきそうな満面の笑みで逃げていく△△を追いかけた。







***
15.09.16

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