夢小説

□密かな熱を抱きしめて
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最近の私はモヤモヤしたものを抱えている。
それは加持さんがドイツ支部からここネルフ本部へと移ってきてからだ。
加持さんとはその時初めて顔を合わせたけれど仕事ができる優秀な人だという話は海を渡って届いていたし、実際に接してみてもユーモアに富む魅力的な人で。
だからあの時までは素直に慕っていた。私の上司であるミサトさんと学生の頃に付き合っていたのだと知るまでは。
それを赤木博士から聞いて、ああそういうことだったのかと腑に落ちた。
二人の間にある親密な空気は、学生時代という華やかな時期を共に過ごしたにせよ、友人としては濃すぎるものだったから。
悔しいけれど、二人はお似合いだと素直に思う。
そうは言ってもこの気持ちを簡単になかったことにできるわけはなく。
だから私がミサトさんのことを無理矢理忘れようと、ちょっと不自然な態度を取ってしまっていたのは認めます。
だけど、どうしてさらっとスルーしてくれないんですか。
加持さんといい雰囲気のくせに、どうしてそんな目で問い詰めるんですか。
どうして、





「――どうして避けるの?」

「…いえ、避けてなんか、」


私は仕事の合間にミサトさんに呼ばれ、がらんとした会議室の中二人きりで向き合っていた。


「ない、って?他のメンバーも薄々気付いてるわよ。気遣われてるみたいだし」


仕事に支障が出るようなことは困るのよね。
とミサトさんははっきりと言った。そこを突かれるとぐうの音も出ない。
ミサトさんに気に入られたくて頑張って仕事してきたはずなのに、そんな指摘を受けていては本末転倒だ。


「ていうか、私何かした?正直に言ってくれて構わないわよ」

「いえ、何もしてないです。明日からはちゃんとします。すみませんでした」

「…解決になってないわ。避けるのには理由があったんでしょう?それを教えてくれないと、改められることも改められないでしょう」


なかなか解放してくれない。
それだけ真剣に捉えてくれているということなのだろうけど、誰にも邪魔されることのない密室で問い詰められて、まるでこの恋心をつつかれているように錯覚してしまう。
ミサトさんは真面目に考えてくれているのに、実態は仕事とは関係のない感情が引き起こしたことだという後ろめたさと、何かのきっかけでボロを出してしまうのではという恐れで彼女の顔が見れない。
じりじりと迫ってくるミサトさんに壁へと追いやられていた。
ミサトさんは右腕を壁に付け私との距離を縮める。



「もしかして…ヤキモチ、とか?」


真っ直ぐ、逸らさない眼差しを受け止めることができず視線を泳がせていた時、そんな思いがけない言葉が飛び出してきた。
私は内心の動揺を隠して否定した。


「いえっ、そんなんじゃ…!」

「△△が言うなら私はあいつと話さないわよ」


ミサトさんは口端を上げて笑った。


「え、」

「但し、そうするにはそれを要求するに値する理由が必要よね」

「え?」

「ただの部下が上司の会話する相手を制限するのはおかしいでしょう?」


緊張のせいだろうか、ミサトさんの言っていることが飲み込めない。
しかも手を取られて、されるがまま目で追うとミサトさんはおもむろに私の指に口付けた。
思わず息を飲む。体が熱い。指先がジンジンと痺れて、動けない。


「それを教えてほしいんだけど」

「それって…理由、って…」


今起こっている現実を上手く処理しきれず、オウムのように言葉を繰り返すしかできない。


「自分の心に聞いてみたら?」

「え」

「…わかってるでしょう?」

「!…っ」


ミサトさんは私の指先に唇をつけたままこっちを見つめる。
今まで上司としての姿しか知らなかったミサトさんの色っぽい一面を見せられて、まるで魔法にかけられたように体の自由を奪われてしまった。
そんな風にこっちを見ないでください。その、見透かしたような、煽るような視線はずるいです。


「あっ、えと、その…っ、ミサト、さん…っ」


無言のプレッシャーに堪えきれず思わず俯くと、ムードをガラリと変えるかのようにふっと笑う声が聞こえた。


「ちょっとやりすぎちゃったかしらね」


今までのは全部冗談だったのかというショックで顔を上げると、目に入った想い人は予想に反して優しく微笑んでいた。
顎を取られて視線を合わせられる。


「上司としてじゃなく一人の女として見てくれる?」

「えっ…?」

「からかいや冗談で言ってるわけじゃないわよ?」

「え、あの、…それ、って…」

「…私のこと、嫌い?」

「い、いえ…!」

「じゃ何?」

「……す、…っす……、」

「葛城いるー?」


暢気な声が唐突に響いてミサトさんと私が声のした方を見ると、ドアを開けた加持さんが立っていた。
驚いた顔をしてる。そりゃそうか。上司と部下が至近距離で見つめ合っているのだから。
しかも片方は元カノなわけだし。


「あれ。……もしかして俺お邪魔っぽい?」

「そういうこと」


そう言ってジト目で加持さんを睨むミサトさん。


「そうか…。△△ちゃんが相手じゃなびいてくれないわけか」

「わかったらさっさと回れ右」


ミサトさんはしっしっと手で払ってみせるけれど、加持さんは意にも介さず。


「健全な男子としてはそこに混ぜてほしいくらいだけどね」

「殺すわよ」

「これは失敬」


加持さんは肩を竦めて、ごゆっくり、と一言残してドアを閉めた。
ふう、と息を吐いてミサトさんは私を見つめ直す。


「邪魔が入っちゃったけど、さっきの続き聞かせてくれる?」


加持さんが入り込んできてくれたおかげで我を取り戻すことができた。
ちゃんと顔を見て伝えないと。


「ミサトさん…好きです」


笑顔で言えたけれどやっぱり照れ臭くてすぐに俯いてしまう。


「私も好き」


私に向けられることなどないとずっと思っていた二文字の言葉。それをミサトさんは難なく、しかしはっきりと伝えてくれた。


「泣くことないでしょう」


いつの間にかぽろぽろと零れてきた嬉し涙。ミサトさんは困ったように笑って、そっと抱き締めてくれる。
溢れる水滴がミサトさんの服に染み込んでいく。


「もう…そんなに泣かれたらもっと色々したくなっちゃうじゃない」


率直な言葉に思わず笑みが零れる。それに合わせてミサトさんも笑う。


「いいですよ。ミサトさんなら」

「△△、」


これまでに聞いたことのないような優しい声。
顔を上げると、今度は唇にそっと口付けられた。


「…今はここまで。続きは仕事が終わったらね」







***
15.10.14

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