夢小説

□隠した本音を捉えてよ
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「くーやーしーいー!うわあああんリツコさんー!」

「ほら、あんまり大声出さないの」


手酌で注いだ熱燗を煽り、△△が咆哮した。ハイペースで飲み続けた△△はすっかり出来上がっている。このやり取りはこれで何度目だろうか。
12月24日の夜という日時柄居酒屋の店内は騒々しく、誰も他の卓など気にも留めないが相手をさせられているリツコとしてはそろそろヒートダウンしてほしかった。
そもそも世間はクリスマスイヴでカップルたちが浮かれているのに、何故女二人でイカの一夜干しなんかをつついているかというと、きっかけは△△からの一本の電話だった。
仕事を終えて帰宅しようとしていると、有休を取っていたはずの△△から連絡が入ったのだ。
電話口で余りに悲壮感溢れる声で縋ってこられたら、上司としては付き合ってやるしかない。
といっても、実は仕事の関係抜きで一人の女として△△のことは気に入っていたから、聖なる夜に彼氏と別れて真っ先にリツコに連絡してきてくれたことは願ったり叶ったりのことだった。
カウンター席で横に座る△△が急に大人しくなったので視線を向けると、しんみりとしてうなだれている。


「別に未練なんてないんです。ホントのこと言うともうだいぶ冷めてましたし。思い切って今日別れるつもりだったんです。そしたらあいつに先に言われて」


冷めてたなんて初耳だった。
つらつらと語る△△の話を黙って聞く。


「浮気してたなんて気付きませんでした。結局、マメじゃないのは私に対してだけっていうのを見抜けなかったんですよね。てか、なんか上からなところとかただただイラッときて。まだ私が好きでいると思ってる、最後までアホな奴でした」


そんな奴に振られるなんてプライドが許せなかったってやつですかね。そう△△は笑う。


「ていうか今更ですけど、クリスマスなのに私に付き合ってていいんですか?」


散々愚痴っておいて本当今更である。


「帰っても猫しかいないしね」


苦笑して煙草の灰を落とした。


「リツコさんって前から思ってましたけど、クールなふりして実は優しいですよね。文句言わずに愚痴きいてくれて。キュンときちゃいました」


一転して軽口を叩く△△。全く、酔っぱらいの相手は大変である。


「ふりしてって何よ、ふりしてって」

「言葉のあやですよぉ。あ、すいません熱燗2合」

「それキャンセルでウーロン茶お願い」

「なあんでですかぁ」


店員に追加注文するのを食い止めると△△は子供のように頬を膨らませた。だいぶ酔いが回っているらしい。


「飲み過ぎよ。帰れなくなるでしょう?」

「うーん、既に無理かもですー」


△△は眠たげにそう吐き出すとリツコにしなだれかかる。
その体はアルコールのせいで火照っていて、熱いくらいだった。
リツコは騒がしい心臓を誤魔化すかのようにお酒に口をつける。


「ねぇリツコさん」


△△はリツコの肩に頭を預けたまま落ち着いた声で問いかける。


「私結構酔ってます。だから、明日の朝になったら何も覚えてないふりもできるんですよ」


その言葉の意味にドキリとした。身も蓋もなく言えば、勢いに任せて乗ってしまいたくもある。
けれど酔いのせいで馬鹿なことを口走ってしまっただけだろう。
正常な判断力を失っている状態の△△にそんなことなどできるわけがない。
煩悩を振り払い、受け流そうとしたリツコに△△は続けた。


「朝まで一緒にいてくれませんか?…私としてはずっと覚えていたいですけど」


薄く笑顔を浮かべる△△を横目で見遣ると、そこには切なさが滲んでいて、リツコは些か驚いた。
まさか△△が自分に対してこんな表情を見せるなんて思ってもみなかったのだ。
年上である沽券を保つため、動揺を押し殺してスマートに告げた。


「…あまり私をからかわない方がいいわよ」

「え?」

「酔ってるとはいえ好きな子にそんなこと言われて流せる程デキた女じゃないの、私」


聞き捨てならないことをあまりにさらりと言われたものだから、△△は思わず顔を上げた。
リツコは涼しげな横顔で煙草を吸っている。
意を決して告げた。


「その方がいいんです」


正面に煙を吐き出したリツコの動きがはたと止まる。今度はリツコが目を丸くする番だった。


「言ったじゃないですか、彼にはとっくに気持ちなんてなかったって」


視線を△△に戻すと、真っ直ぐな瞳がリツコを捉えていた。


「いくらフラれたからって何とも思ってない人をクリスマスに誘うわけないじゃないですか」


視線が絡まり、沈黙が落ちる。
二人の気持ちが同じであることはもはや明白だった。
女と女。上司と部下。
そのラインを踏み越えて均衡状態を崩すのは、はてさてどちらか。







***
15.12.25

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