夢小説

□脱がして召しませ
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はあ、と零れる吐息が耳に響いた。
熱く色づいたそれはそれだけで酷く官能的で私を満足させる。





ターゲットを追って訪れたこの国の駐在員はゲイだったため、いつもの手は使えなかった。
そこで△△と二人で要人達が出席するパーティーに忍び込んだのが少し前のこと。
予想がつかなかったわけではないが、会場に入ってからというもの終始苛々しっぱなしだ。
業界的に女の出席者が少ないせいか、シャンパンゴールドでスレンダーラインのドレスを纏った私と、ブラックのキャミドレスにラビットファーのボレロを合わせた可憐な△△が目立つのはわかる。
わかるけれども、どこの馬とも知れない男が目の前で私の女――△△に声を掛けていて、それにやきもきしている私に気付かない様子の△△にも我慢がならない。
いつもだったら△△にたかる虫共は速攻で叩き落としてやるところだが、私は目を付けた男から情報を得ようと駆け引きの最中。
こいつが無駄話なんかせずにさっさと情報を零してくれさえすればいいのに。
横目でそちらを見遣ると、ああほら具体的な約束まで取り付けられようとしている。
受け流し方が下手な子だから、男の方もイケると判断したらしい。
会話の行方が気になりつつも、言葉巧みに誘導して一番重要だった情報を引き出した。
私はすでに用無しとなった男との話を早々に切り上げ、二人の間に入り込む。


「失礼。うちの秘書に何か?」


途端、困り顔からホッとした表情をする△△。
対して男は何でもない顔をしているがその裏で焦りがあるのは見え見えだった。


「ああ、これは失礼致しました。初めてお目にかかる方だったので」
「最近採った秘書ですの」
「そうですか。いや実に深い見識をお持ちで」
「自慢の部下ですわ」
「羨ましい。うちに引き入れたいくらいです」
「恐縮ですが大事な人材なのでお渡しできませんねぇ」
「はは、手厳しいですね」
「せっかくですが私たちはそろそろ失礼させて頂きますわ」


笑顔だけはキープしているが、表面上だけの下らないやり取りを続けるつもりはない。
懐に入り込もうとするのをはたき落とし、△△を連れてさっさと会場を後にした。


「ありがとヘックス」


速足でエレベーターホールへと向かう私を追いながら△△は礼を言う。


「全く。あなたは目が離せないわねぇ」
「ごめん。でもヘックスの方がたくさんの男に声掛けられてたじゃん。あのチャラそうな男、ヘックスの腰に手回したし」


あら、涼しい顔してるけどこの子も嫉妬してくれていたってことかしら。


「紫のネクタイの?」
「そう」
「あの柄趣味悪すぎよねぇ」
「そこじゃないでしょ」
「…私は何人に声掛けられようが△△しか見てないけど?」


思いの外虫の居所が悪そうな△△に思わず頬が緩みそうなのを我慢して、さらりと愛を告げる。
△△は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向きながら言い返してきた。


「わ、私だって…」
「あなたはだぁめ」
「何で?」


未だ素直に好意を表現するのに慣れない△△。
頑張って気持ちを吐露しようとするのは可愛いけれども、いかに自分がつけ込まれやすいオーラを纏っているかを理解してもらわないと困る。


「△△は隙がありすぎるのよぉ」
「そんなことないよ」
「――あ、ちょっとお化粧室寄っていい?」
「え?…いいけど」


ふと、右方向に伸びる廊下の奥に化粧室があるのを思い出し、返事を聞く前に手を引いた。
△△は素直に“ツレション”についてくるどころか、強引に手を握られたことに満更でもない空気を漂わせている。
私だからいいようなものの、こういうところが隙があるって言っているのにねぇ。
扉を開けると幸い誰も居なかった。手を引いたまま個室に入り鍵をかける。


「え?えっ?」


状況を飲み込めていない△△を壁との間に閉じ込めて教訓を一つ。


「これでも隙がないって言える?」


あえてにっこりと笑んでみせると△△はようやく悟ったらしい。
間髪無く柔らかな唇を塞いでやる。
ドレスの上から胸を揉むと、愛しい子羊からキスの合間に質問が。


「ヘックス、まさかこんなところで?」
「だとしたら?」
「もし誰かに気付かれたら…」
「じゃあ声を漏らさないように気を付けないとねぇ」
「もー…」


口ではそう言いながらも素直に舌を絡めてくる。
△△も内心で私を求めていたのだろう。
背中に回された腕が健気に私を抱きしめていて、それを証明しているかのようだった。
耳や首筋にキスを落としながら△△のボレロを取り払う。


「ねぇ△△、あなた今すごく魅力的よぉ」
「ヘックスこそ。ドレスすごく似合ってる」


服を贈るのはそれを脱がせたいからって言うのがよくわかる。
二人ともこのドレスはレンタルした物だけど、△△が二択で迷っていたから私が選んであげたのだ。
ボレロで甘くなりすぎないようにシックな黒を合わせてみると可愛さの中に淑やかさも滲んで、惚れ直してしまうくらいだった。
だから脱がすのがちょっと勿体無い気もするけれどやっぱり普段と違う服装の△△を脱がせていくのは心が躍る。


「ずっとイライラしてた」
「え?」


ふと思い出したように口にする△△に視線を合わせると、首に手を回されて引き寄せられた。


「会場の男たちみんなヘックスに釘付けだったでしょ。私の彼女なのにって思って」
「それはこっちのセリフよぉ」


不満げな声が耳元に吹き込まれて気分は上々だけれど、嫉妬を露わにする表情が見れなかったのは少し残念。
でもまぁそれは置いといて、可愛い嫉妬の返礼に剥き出しになった肩を甘噛みすると高い声が上がった。
△△の服をするすると剥いでいくにつれて口付けも深くなっていく。
奏でている側の私も次第に昂ってきて熱の籠った呼吸をしていた。
さっき△△に声を掛けた男たち。彼らがまだ仕事の話に花を咲かせている最中に、自分が目を付けた淑やかな“秘書”が同じフロアのこの化粧室で“社長”と交わっているなんて誰が予想できるだろう。
彼らが触れたがったこの子に触れていいのは私だけだ。
髪も、肩も、胸も、腰も、ここも、爪先も。上から下まで、全部が愛おしい。
△△を成すすべてを一つ一つ確かめるように、愛を注いだ。






Title:君の形を確かめる
by 深夜の夢小説60分1本勝負@DN60_1


***
16.03.30

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