夢小説

□メロドラマなふたり
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一週間のお勤めを終えた花の金曜日。
サラリーマンやOLがひしめき合う繁華街に繰り出してとりあえず一軒。
いい感じに出来上がって二軒目に行こうとしたら「見たいドラマがある」と△△から一言。

「えええっ?夜はまだまだこれからでしょ」
「私の家で宅飲みにしませんか?」
「だって△△はテレビ見るんでしょ?」
「一緒に見ましょうよ。最終回も近くてドラマだって盛り上がってるんですよ」
「最終回近いなら初見の私が見ても面白くないじゃない」
「あらすじ説明しますから、お願いします!」

ぱんっ、と手を合わせて可愛い顔でせがまれては嫌とは言えない。年上だし、上司だし。
ここでお開きにせず宅飲みを提案してまで私と一緒にいようとするというその気持ちに免じてお付き合いしようじゃないの。
ドラマの方は全く興味ないけど。

「仕方ないわね。じゃあお酒とか買いに行きましょ」
「やった!さすが物分かりのいいミサトさん!だから部下に慕われてるんですね!」

途端、ぱあっと明るい表情でバッグを持っていない方の腕に腕を絡みつかせてくる。

「おだてても奢ったりしないからね」
「本心ですよ」
「はいはい」




―――
――




このご時世に視聴率もそこそこ高いというその恋愛ドラマは、なるほどなかなか面白くてなんだかんだ言っていた私もそれなりに楽しんで見れていた。
旬な女優と人気俳優を起用していて、しかもその俳優が演じる役の男のセリフや行動はことごとく女心を擽ってくる。
女子が夢中になるのもわからないでもない。
けれど△△の家に△△と二人きりという状況でこんなメロドラマを見せられると色々考えてしまう。
こんな風に猛る思いのままに恋愛関係になれたらとぼんやり思う。
けれど△△と私は女同士だし、普通のカップルよりはるかに前途多難だ。男女と違って好きなだけじゃ付き合っていけない。
法的に保証されないとか、子供を作れないとか、その他諸々山のように問題が積み重なっている。
△△を私のものにすることで現実となる茨の道を△△を背負って歩き切る自信がなかった。
だから私はいつまでたってもこうなのだ、△△とのこの20センチの距離を今日も縮めることができず、コンビニで買ったさきいかと缶ビールを口に運ぶだけ。
そりゃあ△△とどうにかなってしまいたいという気持ちは十二分にある。
けれどその気持ちだけでは上司部下以上恋人未満というこの関係を踏み越えられないし、そうするにはこの関係はあまりに長い年月を経てきてしまった。
とはいえ、△△にいつか彼氏ができて結婚するのを指をくわえて黙って見ていられるほど無欲なわけでもなく。
つまり、私は何かが背中を押してくれるのを待っていた。
今までどんなことだってそれなりにこなしてきたし、要領の良さが私の強みでもある。だから一度踏み出してしまえば例え未来が弱く朧げなものでもどうにかなりそうな気もしていた。
そんなことを考えている私に対し、△△は終始テレビに向かってリアクションを取っていて、怒ったり悲しんだり喜んだり。
本当によく表情が変わる面白い子。そういうところも△△を好きな理由の一つだった。

「キャーーーーー」

遅い時間であることも憚らず突然上がった黄色い声に何かと思って画面に意識を戻すと、クライマックスでドラマの中で男女がもつれ合ってベッドに倒れこんだところだった。
ムード漂うドラマに反して現実では△△がキャーキャー盛り上がっている。
今はそんな顔して見せてるけど、同じようなシチュエーションになったらどんな顔をする?

「はぁ〜。さすが○○、カッコいいー!」

俳優を絶賛する△△の熱を帯びたセリフがきっかけだった。

「△△」
「――はい?」

△△が振り向いた瞬間、小さな肩をぐいと引き寄せた。
胸の中でこちらを驚いたように見上げる△△を見つめ返す。

「、びっくりするじゃないですか。どしたんですか?」
「私たちも一線超えてみる?ドラマみたいに」
「…何言ってるんですか急に。怖い顔しちゃってやですよミサトさん」

そんな風に拒んでみせても私知ってるから。あなたが私のこと好きなこと。
私があなたを想って身を焦がしているように、あなたも私に溺れてるでしょう。
ずっとあなたのこと見てきたから、あなたも私のことを見てるのを随分前から知ってるのよ。

「急にじゃない、ずっと好きだったわ。今まで踏ん切りがつかなかっただけ」
「ならどうして踏ん切りがついたんですか」
「ドラマに感化されて、かな」
「なんか軽くないですかそれぇ」

冗談で済ませるつもりなのだろうか。
△△はへらへらと笑ってみせる。
素早く体勢を変えて華奢な体を押し倒した。
息を飲む△△。

「軽くなんてないってこと、証明してあげる」
「ミ、サトさん。…えと、あの…私の気持ちも言わせてください」

我ながら安いきっかけだとも思うけれど△△だってこの時を待ち望んでいたわけだし、想い合ってる二人には大した問題じゃない。
深い泥沼に足を踏み入れる。
この先にゴールなんてないし、きっといつか終わってしまうかもしれない。
そうわかっていても、お互いに傷付くに違いなくても。
同じ気持ちを告げてくれた△△の睫毛が静かに伏せられたから、もう止まらなかった。







title:ずぶずぶに愛されて
by 深夜の夢小説60分1本勝負@DN60_1

***
16.04.12

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