夢小説

□初恋は永遠に褪せることもできずに
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※姉妹設定。ヘックスの家族も捏造してます。







私の姉は軍人だった。
とても優秀な兵士でプライドが高く、グリーンベレーを被れる程の成績を残した。ついでに言えば、計画自体が頓挫してしまったけれど史上初の女性だけの特殊部隊に入る予定ですらあったらしい。
らしい、というのは私が数年後に軍に入ってから、姉の同期だった人がこっそり教えてくれたからだ。
けれど高校生の時点での私は身体能力も頭の回転も平々凡々、リーダーシップも皆無、愛国心なんてものに至っては姉には遠く及ばなかった。どちらかと言えば体を動かすより本を読んでいる方が好きな方だったし、姉のことは尊敬していたが軍に入る気などさらさらなかった。
そんな私が後に姉と同じ道を選んだ理由は、ここでは語らない。
とにかく姉は小さい頃から能力が高く、先祖代々軍人家系だった我が家の中でも特に自慢の娘だったのに対して、私は極々普通の一少女だった。
幼い頃から姉と比べられて育ってきた私がグレることもなく今日まで品行方正に生きてきたのは、比較されても年が離れているせいであまり悔しさを感じなかったのもあるが、何より姉が私を深く愛してくれていたからに他ならない。
私も姉のことが大好きだったし、危険な任務の合間に帰ってきてくれるとまた無事会えたことを神に感謝するのもそこそこに、一目散に飛びついていっていた。そして姉は破顔して優しく抱き締めてくれる。
これからもそんな関係が続いていくのだと思っていた。





「ただいまぁ」
「おかえりーっ」

任務が一段落するからこの日に帰るとメールが来てから幾つ夜を数えただろうか。
もし帰ってくるまでに姉に万が一のことがあって、無言の帰宅となってしまったらと、嫌な想像をしてしまうこともあった。
でも今はそんな心配は吹っ飛び、五体満足で再会できた嬉しさに私は弾丸のように玄関まで飛んで行った。

「△△、大きくなったわねぇ」

相変わらずバックパック一つに入る分だけの少ない荷物と共に現れた姉は、死線を潜り抜けてまた強くなっている気迫があった。
きっと戦場では怖い顔で命令を出して部下を率いているんだろう。
でも家族の前ではとても優しい姉なのは変わりない、今だってほら、大きな掌で頭を撫でて頬にキスをくれる。

「二年ぶりだもん、そりゃあね。お姉ちゃんこそ髪伸ばしたんだね、こっちの方が素敵、すっごく似合ってる!」
「ありがとう。△△こそ素敵なレディになったじゃない」
「えへへ。そうかなー」

玄関先でわちゃわちゃ話しているとリビングから父が杖を突きながら出てきた。
父も軍人だったが、足を怪我して退役してからは十分な額の退職金を貰って悠々自適に暮らしている。

「おかえり我が娘。今回もしっかり国に尽くしてきたか?」
「お父さんたら、お姉ちゃんが無事に帰ってこれたのが何よりじゃない。…それよりも空港まで迎えに行きたかったのに」
「ちょっと職場に寄らなきゃならなかったからねぇ」

姉が言う『職場』を私も父も正確には知らされていない。軍を辞めたのは聞かされたけれど、再就職先として告げられた傭兵会社は嘘だと私は踏んでいる。私の自慢の姉がそんなちゃちな仕事をするわけがない。きっと家族にも言えない、そう例えばCIAとかにリクルートされたのだと勝手に思っている。

「後でみんなで母さんに顔を見せに行こうじゃないか」
「近くに新しい花屋さんができたんだよ。お花はそこで買うってもう決めてるの」

母は少し離れた区画にある墓地で安らかに眠っている。数年前病気で亡くなった。それからは姉が帰ってくると家族揃って墓参りに行くのが恒例となっている。

「お墓参りも二年ぶりねぇ。とりあえず荷物下ろしてくるわぁ」
「お茶を淹れておくよ」

父の言葉を背に二階にある自室へと階段を上る姉に私もついていく。

「きれいに掃除しておいたよ、お姉ちゃんが気持ちよく眠れるように」
「△△はいいお嫁さんになるわねぇ」
「まぁね」

軽口を叩きながら私は自分の気持ちに戸惑っていた。
会わなかったのは二年という今までで一番長い期間とはいえ、たまに電話で話をすることもあったのに、顔を合わせて数分経ってもまだ気持ちが浮き足立っている。まるで片思いの男の子と挨拶した時みたいに。
私の記憶の中の姉はいつも短い髪をしていたけれど、さっき目にしたばかりの姉は今では綺麗なロングヘアになっていて、まるで知らない人みたいでドキリとしてしまったのだ。
家族に対してそんな風に思うのはままあることなのだろうか。チークキスした時も、頭を撫でられた時も、単純に会えた嬉しさだけではなさそうな微熱が私の心に灯ったのだ。
そんな戸惑いを抱えながら、姉が家で過ごす数日間はあっという間に過ぎ去ろうとしていた。
明日には再び戦地に向かって旅立つ姉との時間が名残惜しくて、姉の部屋のベッドで他愛のない話を続けていた。
けれど楽しい時間は短く感じるもので、いつの間にか時計の長針と短針が揃って天辺を指しているのに気付く。名残惜しさはあったけれど私は自室に戻ることにした。

「そろそろ寝るね。明日は空港まで送る約束、忘れないでね」
「△△」

廊下へ続くドアに手を掛けた時に呼び止められ、肩越しに振り返る。

「ん?」
「一緒に寝ない?」

姉はさっきと変わらずベッドの上に胡坐をかいて、こちらに向かって僅かに首を傾げている。
その様子から姉妹のコミュニケーション以外の他意は感じられなかった。

「――いいよ」

私が姉の提案に頷いたのは、自分の気持ちを確かめてみたかったのもあるのかもしれない。



――――
――




自分の部屋から持ち込んだ枕を姉のと並べてベッドに入ってからしばらく経つ。
暗闇にも目が慣れてしまって、私は天井の模様を目で追っていた。追ってはいるけど気になっているのは隣の存在で。
息遣いから、なんとなく姉もまだ起きている様子が伺えた。
何か言いたくて、でも何て言えばいいのかわからなくて、口をもごもごさせている間に姉が沈黙を破った。

「△△は好きな子いるのぉ?」
「どしたの急に」

唐突なガールズトークにどぎまぎして答えると姉はこちらに寝返りを打った。

「△△も彼氏の一人や二人いてもおかしくない年頃でしょう。姉としては心配なのよぉ」

耳のすぐそばで姉が言った。話し方の癖である間延びした語尾は言葉の感触を和らげるはずなのに、姉は笑わずにただ告げるから私は真面目に答えなくちゃならない気がしてしまう。
こんな話、面白がって弄ってくるのが一般的な姉だろうに、調子を狂わされる。
ゆっくりと言葉を選ぶ。

「いないよ。そんなの。男子なんて皆子供みたいだし」
「そう」

そのたった二文字の感想が、姉としての必要以上にほっとしたように聞こえたのは気のせいだろうか。
そして私が答えるまでの数秒間の緊張。これも、私の思い過ごしだろうか。

「久しぶりに帰ってきたら、なんだか△△が大人になってたから遠くに行っちゃったように感じてたの」

想定外の姉の本音に問いかけるよりも早く、姉の両腕が私を抱き締めていた。

「昔は腕にすっぽり収まっちゃうくらい小さかったのに、もうこんなに大きくなったのねぇ」

姉の声が耳の奥まで吹き込まれる。それはなんだか私が今まで聞いたことのない声のように聞こえる。まるで魔法の呪文のように、私を絡め取る。

「ここも、すっかり成長して」
「っえ…?」

姉の掌は私の胸を這っていた。それはちょっとした身体測定のような手つきではなく、まさにそれは、恋人にでもするような愛撫だった。
経験なんてまだないけれど、わかる。この雰囲気は、『そういう』雰囲気だ。

「ここも、」
「っ!?」

姉は何の躊躇いもなく私の胸の頂を摘んだ。
薄いシャツ一枚を通して姉の指先が突起を転がす。

「ちゃんと成長してるのねぇ」

その言葉はぴんと立ち上がった乳首を指摘していて、私は姉のした行為に対する驚愕で頭が真っ白になる。声も出せない。
同時に、血の繋がった姉にこんなことをされて反応してしまう体がはしたなく思えて、恥ずかしくてならなかった。

「こういうこと、した経験ある?」

疑問形ではあるが、答えは一つしか求めていないように聞こえる。事実、その答えの通りなのに私は責められている気がして、ふるふると首を振ると姉は満足そうに笑みを浮かべた。いつもの姉の笑顔とどこが違うのか、初めて見る様な姉だった。

「キスは?」

これも、首を振る。本当のことだ。
姉はまた、笑う。

「じゃあ、お姉ちゃんが教えてあげるわぁ」

姉は体を起こして私の顔の横に両手を突く。逃げ場はない。ぎしりとベッドが軋んだ。
それからの私はただただ翻弄されるだけだった。
キスをされたと思ったら、舌を伸ばされて、絡み取られ、口内をなぞられる。唾液に塗れた舌で舌を擦られて、そこで私は初めて背徳感を感じると同時に、そのいやらしさに正常な思考回路は掻き消されてしまった。

「△△」

ここでやめるべきだった。姉妹だからと、しちゃいけないのだと、姉の身体を押し返すべきだった。
けれど私にはそれができなかった。なぜなら、姉がキスの合間に私を呼ぶ声はとろける程に甘く切ないものだったから。そして、姉が欲しいと強く望んでいる自分にも気付いてしまったから。
実の姉を、実の妹を求め合うなんて許されることではないと頭の隅ではわかっていても、若く青い私はそんな問題は砂粒よりも小さく思えたのだ。
自分からも舌を伸ばしてみると、姉が嬉しそうに笑ったのがわかった。そして髪をそっと撫でられて、私は堪らず姉の背中に腕を回した。




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