夢小説

□支配の近似値
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銃の腕を問えば申し分ない。銃火器を扱う者にしては性格は温厚だが私の命には逆らわずミスも犯さない。けれどそれらは私の部下である以上必要最低限のことでしかない。ビジュアルですら、美しい方だとは思うけれど私には劣る。
そんな△△に対して何故か抱くこの感情の名前を、私は知らない。




――否、知識としては知っている。
それは私がこの世で最も無駄だと思っている代物。けれど私はこのチリチリとした胸の騒めきを、常に否定し続けてきたそれだとは認めたくなかった。
私は認めないことを選び、△△に口付けてみた。私の選択が本心である証として。
初めて触れた△△の唇は柔く甘い。思いの外良くて、暫く下唇の弾力を楽しんだ。離れしな微かにリップ音が立つ。
△△は一瞬目を泳がせてしかしすぐに私を見据えた。

「戯れが過ぎますよ、サイファー」

私はそれを無視して、吐息が混じる至近距離のまま△△の頬を撫でる。
傍から見たら愛おしさに満ちた手つきであろうが、実際は空虚だ。

「愛なんて俗物に過ぎないと思わない?」
「そうですね。あなたに仕えると決めた時に、あなたの野望を叶えるのに不要なものは全て捨ててきましたから」

△△は当然とでも言うかのように言い放った。
けれどどれもこれも、私は手に取るようにわかってしまう。
知っている。△△が私の愛を心底求めていることを。
聞こえてくる。私に対する渇望で△△の心が干上がっていく静かな音が。
捉えている。真夜中に△△が私の名を甘く切なく漏らしていることも。
△△は私を欲していて、私もそれがやぶさかではない。素直に気持ちを開示すれば△△も私も、熱くほろ苦い煩悶からは逃れられるのだろう。ただ、そうして同時にやってくるのは『不自由』。
それがわかっているから私は△△を求めないことを選んだ。
粘液に塗れた芯を擦る。
今まで単なる処理でしかなかったものが、△△を思い浮かべるだけで色を帯び始める。
ただ知りたかっただけ。夜毎繰り返される吐息混じりの一人遊び。特定の人を想うことはそうでない場合と何が違うのかと。

「ぁ……△△…っ」

誰かを想いながら達したのは生まれて初めてのことだった。
訪れたのは△△を汚してしまったという柄にもない後悔。同時に、それを上回る程の支配欲。
誰も知らない△△を暴きたい。私の痕跡を身体中に刻み付けたい。
私が無下にしていた感情はこんなにもすぐ近くにあったのだ。枯れることを知らない私の支配欲が形を変えて。

私は受け入れた。これが恋だということを。





***
17.05.24

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