百合小説

□marking
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ドライヤーで乾かした髪をつまんで匂いを嗅いでみる。

リツコが持ち帰った仕事を片付けている間に先にシャワーを借りていたのだが、シャンプーとコンディショナーがこの前と違うものになっていた。

シトラスの香りは彼女にはあまり似合わないし、そもそも好みじゃないだろうに。

微弱な風を送ってくるエアコンを見上げ、リモコンを取って確認すると案の定微妙な設定をされている。
24度の微風。

あの子も24だったかしら。

クーラーの設定温度を一気に下げた。

馬鹿馬鹿しい。いつから私はこんなに小姑みたいに目ざとくなったんだか。

自嘲してポテトチップの袋を開け、若手芸人が必死に笑いを取るのをぼんやり眺める。

スーパーで買い込んだ惣菜をつまみにビール飲んで、思い付いた時に思い付いたことを好き勝手話して、5回に4回はセックスして。

学生の頃からやることは変わらないけど口数はお互い減ったかも。

職場でもプライベートでも一緒だと話すことはそうなくなる。

仕事の話?したくないもんそんなもの。

枕に頭を預けると、慣れない香りが鼻をくすぐった。

顔を埋めて嗅いでみる。

甘ったるい香水の香り。

気付かなかった。……あの子ね。




「やだ。またキンキンに部屋冷やして」

バスローブ姿のリツコが濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。
その姿はもう見慣れている。

「だってシャワー浴びたのに空気が温かったらやじゃない」

「寒いわよ」

リモコンを取り上げられてピピピ、と設定温度を戻された。

諦めて体を伸ばし、ポテチをつまむ。

「ちょっと、ベッドの上で食べないで」

「うーん」

「ほらこぼしてるじゃない」

リツコは小さな破片をめざとく見つけて小言を言うと、私の目の前のそれをつまんでそばのゴミ箱に捨てる。

すらりとした指のその一連の動きをビールを煽りながら眺めていた私は缶をベッドの下に置き、リツコの指をとって口に運んだ。

人差し指の先、爪と肉の境目を舌でなぞるのが好きだ。

私自身がそうされるのが好きだからだと思う。

基本的にリツコが何をされるのが好きなのかを私は知らない、というかよく判らないから私がされて嬉しいことをするしかない。

リツコは何しようが同じ様な反応しかしないから。

証拠に、今も指を私に任せたままベッドサイドに突っ立っている。

まるで機械のようにきれいな指捌きでキーボードを叩く指を好きにさせてくれるのは、リツコの周りの人間の中で割と特別な存在だからなんだろうと思うことにしている。

その特別ってのは私一人だけじゃないんでしょーけどね。



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