V騎士

□言葉はこんな残酷だった
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*ちょっと甘めで切ない








「零くんってさ、なんかいつも難しい顔してるよね」


「……なんだよ、それ」


幼い頃から慣れ親しんできた奴と二人きりで過ごす昼休みは、俺を珍しく穏やかな気分にさせた。



「んーでもさ、今眠いんでしょ?」


「は?」


「なんかね、すごい眠そうだよ」


くすくす笑い、名無しさんは俺の頭を撫でる。なんだか本当に眠くなったから抵抗しないでいたら、驚いたような声が頭上から降ってきた。




「な、なんでっ?!」


「…?」


「ぜぜ零くんが抵抗しない!!」


ムッ、と睨んで名無しさんを見遣れば、名無しさんは怯えたように肩を竦めてみせる。


「じょーだんだよーっ!いちいち本気にするな!」


「痛っ、」

名無しさんの腕が伸びてきたと思ったら、その手の平が頬を軽く叩いた。
全く痛くないし、寧ろこうやって触れ合える時間が幸せだとも感じる。







「…あのさ、零くん」


ぴくり、
名無しさんの真剣な声色に、自分でも解る程体が跳ねた。
いつも、いつもそうなのだ。
馬鹿みたいにふざけてそしてそれが真剣な話題に変わる時、俺は酷く緊張する。



「ちゃんと、寝てるの?」


「…ああ」


「そっか、なら良かった」


それでにっこりと笑う名無しさんを見て、無性に泣きたくなるのもいつもの事。
この笑顔が欲しくて、欲しくてたまらないのに。なんて遠いんだろう。

無意識のうちに伸ばした手が、名無しさんの頬に触れた。
触れられるという事実に酷く安心した。
情けない顔をしているのだろう。
不安そうな名無しさんが俺の手に自分の手を重ねてまた笑った。

しかしその顔はどんどん俯いて、影で見えなくなって。
ゆらゆら揺れて光る瞳は俺を映さない。

小刻みに震えているのはどちらだろうか。




「ねえ、」


やめてくれ、解っているから。
お前がいつも何を思って俺の心配をするのか、これからお前が何を言おうとしているのか。

全部ぜんぶ、手に取るように解る。

長い間一緒にいたから、という理由で結論づけてしまうのは短絡的すぎるんだ。





「っ、」


そっと名無しさんの唇に人差し指を当てればぴくりと跳ねる体。その後すぐに、ごめん、というか細い声が聞こえた。

涙を堪えて笑いながら、もし"普通"だったら幸せになれたのかな、と言う名無しさんに背を向けて、俺はその場を立ち去る事しかできない。




してる、

一度聞いたら最後、傷つける事を代償とした愛を、知ってしまうのだろう。









言葉はこんなに残酷だった
(泣く権利も傷つく権利さえなくて)
(悔しさに苛まれるのはお互い様)




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10.12.09

零はシリアスな恋が似合うと思う
最終的には幸せになって欲しいけど

.

 

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