スレイヤーズ長編小説

□outside of the world
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   1.厄介ごとは いつもあっちから 降ってくる


 その日、あたしとガウリイは、いつものように盗賊いぢめ――もとい、路銀稼ぎをしていた。ガウリイはあたしのフォローをしつつ、数人の盗賊を簡単にあしらっている。このくらいの敵なら、敵とも呼べないくらいの差を持っているから出来る芸当だ。
 あたしは専ら、なんの考えもなく突っ込んでくる奴らを魔法でぶっ飛ばす。

「火炎球!」

 あたしの放った火の玉は真っすぐに奴らの中心へ落ち、辺りを火の海に変えた。

「うわあぁぁあっ! 早く火を消せ! 奥に引火したら大変なことになるぞ!」

 どうやら、指示を出しているのが中心人物らしい。頭領ではない、と思ったのは、弱々しい外見と周りの誰もその声に反応しないから。しかし、『奥にあるもの』が何かを知っているからだ。
 お宝かと思ったが、雰囲気からして違うようだ。

「――おっちゃん。引火って奥に何を隠してるわけ?」

 あらかた倒し終わったあたしとガウリイはそいつのところへ行って、尋問と言う名の質問をする。

「お、お前等が事件の黒幕か!」

 ぅおい。

「自分達のやってることを棚に上げて、黒幕呼ばわり? ずいぶんな言い草ねぇ?」
「いやー、似たようなもんだと……いや、すまん。続けてくれ」

 ガウリイはあたしの一睨みで沈黙した。

「さあ、吐きなさい。奥には何があるの? 事と次第によっちゃ、ただじゃおかないわよ?」

 にっこり笑顔で言う。だが、奴は怯えた様子で「ごめんなさい」を繰り返すだけで、なかなか話が先に進まない。
 ……仕方ないなぁ。

「とにかく! 奥にあるものを教えなさいっ! 引火ってどういうこと!?」

 すると、はっと我に返ったようで「こうしちゃいられない!」と走りだした。

「お前たちにも責任とってもらうからなー!」
「ち、ちょっと! どういう意味よ!」
「行くだけ行ってみようぜ。なんか様子が変だ」

 ガウリイにわかるほど、露骨に怪しい。あたしたちは奴を追って――

「――伏せろ! リナっ!」
「きゃっ!」

 どごおぉぉおん!

 どでかい音と共に、奥から炎と熱風が吹き出した。先に降りていたおっちゃんは……巻き込まれたのか、黒焦げになって倒れ伏した。
 ガウリイが気付いて庇ってくれなかったら、あたしたちもああなっていたかもしれない。

「怪我無いか?」
「平気。ちょっと擦り剥いたけど……奴ら、とんでもない量を抱え込んでいたのね。引火する、って言っていたのは――」
「この匂い……火薬か?」
「そう。恐らく武器庫に使っていたんでしょうね」

 なんにしても、長居は無用だ。これだけの爆発なら、すぐに下の街から警備兵の集団が来るだろう。……お宝探せないのは、痛いけど……

「いくわよ! 翔封界!」
 ガウリイがいる分、高度は下がるが、仕方ない。急いでその場から離れて、宿へと戻ったのだった。


 宿へ帰り、窓から『浮遊』の術でそっとあたしの部屋に二人で降り立つ。

「とんでもない目に遭ったなー」
「そうね。……ね、どう思う?」

 内装が女性と男性では違うのか、部屋のあちこちを見回しながら、ガウリイは、

「ん? 好きだぞ?」

 ……はい?
 話が繋がっていない。

「ガウリイ。どう思う? って聞かれて、何をどう理解して、その返事になったわけ?」
「へ? だから、リナの事が好きだ、って言ったんだが」
「ボケるなあっ! あたしが聞いたのは、さっきの盗賊たちの事よ!」
「おおっ! それならそうと早く言ってくれれば……」

 すぱーんっ!

「言ったわよ、言外にっ!
 どんな話の流れで、あたしが……その、ガウリイに、んなこと聞かなきゃなんないのよ!」
「いや、意表をついてみたのかと」
「つくかぁっ!」

 あたしのスリッパ攻撃にもめげる様子はなく、とんちんかんな答えをするガウリイ。
 ……ああ、本題に入る前に、疲れてきた。

「まあ、それはそれとして。山火事を起こしそうなほどの火薬を溜め込んで、奴らは何をしようとしてたのかしら」
「うーん……花火を上げるとか?」
「盗賊が何のために花火職人の真似事をしなきゃならないのよ」
「綺麗だから」

 ずべっ。

 思わず倒けるあたし。

「んな理由な訳ないでしょ!」
「いやあ、中には季節の風物詩を大事にする奴もいるんじゃないか?」
「……それなら、風鈴や蚊取りぶたさんで十分でしょうが」
「あー、そうか」

 二人して、考え込む。
 ただの盗賊にあんな膨大な火薬が手に入れられるとは思えない。なにしろ、結界の外の世界ならいざ知らず、こっちは剣や魔法の世界。火薬なんて使わなくても、あの程度の爆発は簡単に起こせるのだから。
 しかし――外の世界なら?

「……ちょっと厄介な感じがしてきたわね……」

 いまだによくわかっていないガウリイをほっぽって、あたしは厭な予感に捉われていた……
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