スレイヤーズ短編集
□ゼフィーリアへの旅路
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プロローグ 迷って迷って
「なあ、リナ」
「なによ、ガウリイ」
「ひとつ聞いていいか?」
「却下」
言われて一瞬不思議そうな表情を浮かべるガウリイ。
「なんでだ?」
「なんでって……おのれがやった所業を、忘れたかあっ! このくらげ頭っ!」
ゼフィーリアへと向かう街道を歩いていたのは、まだ陽が高い頃。普通に歩けば、そんなに時間もかからず、夕方には近隣の村にでも着いていたはずだった。
しかし。
「あんたが、盗賊に出くわさないように、違う道を行こうってさっさと別方向へと歩いて行ったんでしょうが! そしたら、案の定道に迷って!」
何が悲しくて、実家への道を迷わなければならないのか、と声を荒げるリナに、ガウリイは、
「でも、お前さんも止めなかっただろ?
大丈夫だ。歩いていれば、どこかに抜けるって」
「あんたねぇ……」
そのマイペース且つ、前向きな思考に、リナは諦めたようだった。
「まあ、なんにしても。今日はここで野宿ね。仕方ないけど」
「そうだな」
辺りはもう既に暗くなっていた。とりあえず火を起こし、非常食を口に運ぶ。
明かりの魔法を使おうとするリナを止めるガウリイ。
「え、どしたの?」
「わざわざ魔法を使わなくても、焚き火で十分明るいだろ?」
「それはそうだけど……」
ぱちん、と火がはぜる音。リナがふと、ガウリイに問う。
「ねえ、ガウリイ?」
「ん?」
「昼間のこともそうだけど、なんか妙に気を遣ってない?」
「悪いことじゃないだろ。
お前さん、自分の事になるといい加減な面があるからな」
「いい加減って」
そんな事は無いと思うのだが、長年一緒の相手が言うことだ。多少なりともそういうことがあるのだろう。
「それに」
「それに?」
「リナを無事に送り届けられないようじゃ、保護者失格だからな」
火を見つめたまま、ガウリイが言う。
「保護者……ねぇ」
――あれ? なんかあたし、がっかりしてる?
自分の中から感じた思いもよらない感情に、リナは戸惑った。
「どうかしたか?」
気付けばこちらを見つめるガウリイ。何故か、恥ずかしい気がして、視線をそらす。
「なんでもないわよ」
「なんでもない奴が、視線そらす訳ないだろ?」
「う……」
優しい声で、目で、答えを待つガウリイ。
「――なんでもない。なんで、そんなに気にするのよ?」
すると、当然のように、
「好きな奴の事を心配しちゃ、ダメなのか?」
とくん。
反応する心臓の音。
そして、さっきまでの寂しいような感覚が消えていくのを感じた。
――なんだ。あたし、この言葉が――
「……リナ?」
「大丈夫よ!
ありがとね、ガウリイ」
ガウリイはリナの顔を心配そうに見ていたが、満面の笑みを浮かべ、「ああ」と応えたのだった。