スレイヤーズ長編小説
□outside of the world
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次の日。
あたしたちは宿を後にし、もう一度盗賊団がいたアジトの跡を見に行った。しん……と静まり返った、かつてのアジトに、ゆっくり下りていく。
焦げ臭い匂いと混じって、微かに火薬の匂いを感じた。
「ひどいもんだな……リナの火炎球の所為もあるが、やっぱり、あの爆発が……」
土も焦げ、真っ黒くなっている。あたしは武器庫と思われるあの場所へ足を踏み入れようとした。
のだが。
「――お待ちなさいっ! 盗賊団がいた場所にきた、ということは、あなた方も仲間! すなわち、悪!
人様から奪った金品を何処へ持ち去って隠したのかは、正義の拳を持つ、このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが聞き出して差し上げます!
とうっ!」
お日様をバックに、朗々と口上を述べた後、その人影は一番高い、すり鉢状の地の端から飛び降りた。
どしゃっ!
……で、まあこうなるだろうとは思ったんだけど……
着地に失敗しつつも、めげることなく、体勢を立て直し、
「さあっ! おとなしく正義をなさんがため、話していただきましょう! ……って、あれ? リナさん! それに、ガウリイさんまで! どうしたんですか?」
「……相変わらずねー、アメリア」
「おー、元気そうで何より」
ちなみに、正義をなさんがため云々は、「問答無用で尋問する」というのと、同義語である。
それにしても、セイルーンから遠く離れたこの地で出会うとは……
「なんだってこんなところにいるのよ、アメリア? あんた、セイルーンに帰ったんじゃないの?」
「あ、そのことなんだけど……なんていうか……此処に来れば、リナさんに会える、っていう夢を見たんです。ただ、夢の感じからして、あまり良いものではなくて……
――リナさん、外の世界へ向かうつもりですね?」
アメリアが見た夢がどんなものなのか聞きたい気もしたが、聖王都セイルーンの姫で巫女でもある彼女の夢だ。彼女自身話すのをためらった節がある。
それじゃ、あたしにとって愉快な話じゃないのも想像がつく。
でも。
「どんな夢だったの?」
聞かなきゃ前に進まない気がしていた。
何故、あたしに会わなければならないのかも。何故、あたしが外の世界へ向かうと夢で知ったのかも。
――荒れ果てた地に、一陣の風が吹き荒れた。
風が強く吹き、髪がなびく。
アメリアの提案で、近くの街へと下りるあたしたち。
――ゆっくり話したいので……場所を移動してもいいですか?
そう言われて、行った場所は、アジトの麓にある街の一軒のカフェだった。
道すがら、あたしたちが何故、あそこにいたのかは話してある。アメリアの反応は、「リナさんらしいですね」だった。
どんな目でヒトを見てるんだろう……?
奥の席に陣取り、あたしは香茶、アメリアはジュース、ガウリイは蜂蜜入のミルクを頼んだ。……子供か、おまいは。
「で、どんな夢なの?」
なるべく声を潜めて問う。アメリアは少し迷った風であったが、意を決したように、あたしの目を見て語りはじめた。
「……最近、小さな争いがあちこちの国で広まりつつあるのは、知ってますか?」
「まあ、風の噂程度なら。でも、それがどうしたの?」
「今までなら、王国であれば兵を送ったり、小さな街であれば警備兵が出動して簡単に鎮圧出来たんですが……最近は様子がおかしいんです」
「……どういうこと?」
「今までなら、投石や弓矢で襲ってくる輩を『説得』してきたんですが……」
こらこら。それって「拳にモノを言わせて、ぶち倒した」ってことじゃないのか?
そう思うが、黙って続きを聞く。
「ここ最近は、鉄球みたいなのが爆発を起こしたり、筒から鉛玉が飛んでくる武器とか……魔法を起こしてるみたいな新しいタイプが出回っているようで……だんだん、小さな小競り合いじゃ済まなくなってきているんです」
「パワーバランスの変化……」
もし、このまま放っておけば、近いうちにじわじわとパワーバランスは崩れてくるだろう。
「でも、それとあたしと何の関係が?」
ミルクに張った薄い膜をスプーンで突いて遊ぶガウリイ。……ちっとは話に参加しろ。
そんな彼を横目に、問うと、
「……近いうちにこの街で大爆発が起こるだろう。次の日、その地で最初に出会う者――その者の意志・行動により、世界が滅びるか否かが定まる……これが、夢で見た予言。それと共に、現われたのが……」
「あたしだった、ってわけね?」
頷くアメリアと相変わらず、膜で遊ぶガウリイ。……後でしばいとこ。
「なるほどね……で、なんで外の世界へ向かうと思ったの?」
「それは、ここが外の世界へ向かうには、一番の近道だからです。昨日の爆発の時に居合わせたなら、絶対リナさんは動くでしょう?」
と、一口ジュースを飲む。
あたしも香茶を口にしながら、話の流れを整理していた。
「要は、全国巻き込んだ戦争になりそうだから、それを止めたい。それにはあたしが必要……ってことかしら?」
「そういうことだ」
返事を返したのは、アメリアでは無かった。この声は……
「ゼル! あんたもここにきていたの?」
「ああ、アメリアの護衛でな。アメリアの夢が本当なら、並みの人間では無理だろう。
それにしても、変わらんな、ガウリイの旦那は」
顔を上げることなく、何が楽しいのか同じ動作を繰り返す、ガウリイ。
しかし……やっぱり、厄介な事に巻き込まれるんだなー……あたしって。
「――OK。とりあえず、二人の言う通りにしましょ」
「それじゃ……」
「昨日の爆発、あれは大量の火薬に引火したモノ。てことは、誰かがあいつらに売り付けた、ってことだわ。下手をすると、世界中を巻き込んだ戦争に発展するかもしれない。
……なら、叩き潰してやりましょう、そのルート」
「はいっ!」
「異義なしだ」
「え、どうなったんだ?」
「後からじっくり話してやるわよ。
それじゃ、行きましょうか――外の世界へ」