短い話

□ろ
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お前の彼女、街中で泣いてたらしいじゃん



食堂のレジに並んでいる時に、不意に思い出したように聡が言った。俺は、え、とか、は、とか言いながら会計を済ませ、先に席をとっていた佑の隣に座ってから、もう一度、え、と言うと、聡が「お前、動揺しすぎだろ」と笑う。


「え、なに、てか、どこ情報?」

「どこっつーか…朝から結構噂になってるぞ?」

聡はそう言うとずずっとうどんをすする。佑も「なにが?」と尋ねてから似たようにラーメンをすすった。


「いや、だから…コイツの彼女が路上で泣いてたらしいって話」

「…なにそれ」

「詳細については俺じゃなくてコイツに聞けよ」

「詳細もなにも…俺はなんも知らねーし」


応えてから天丼を口に運ぶ。不思議と味が感じられない気がして、俺は水で口の中のそれを流し込む。


「そんな悠長に構えてていいのか?お前と別れたんじゃねーかっていう勝手な憶測も飛び交ってんだぞ。下手したら早とちりしたやつらが、あの美人の彼女さんに告ったりとかしちゃうかもよ?」

「あー……すまん。…実は別れたんだ、俺ら」



ゴブッという音とともに聡が盛大にラーメンを吹き出した。なんとか左手で飛び散るのは阻止しているが、その手の内はいろいろとアレになっているだろう。そう思った俺は近くにあった台拭きを聡の顔面に放った。


「なんかあったの?」


佑が興味津々といった様子で聞いてくる。


「あー…なんかっつーか…まぁいろんなことが積もり積もってって感じ。ほら、アイツ結構我が儘だし」

「へー」


何でもないように佑が、そーか、とか、ふーん、とか言ってくる。でも俺は知っていた。コイツが俺の…元彼女のことを結構本気で好きだということを。

俺は残っていた水を飲み干した。口の中がねばねばして気持ちが悪い。


さっきまで苦しんでいた聡が丼を覗き込んで、うへー…と声を上げる。それから殆ど手を付けてない俺の天丼を物欲しそうに覗き込んだ。


「食う?」

「いいのか?お前全然食ってねーじゃん」

「やるよ。食欲湧かねーし」


聡はじゃあ…と言って天丼を自分の方に引き寄せてご飯をかき込んだ。


「お前は彼女と長いもんな。」


聡の食いっぷりを眺めながら佑がため息をついてから俺の方へ向く。


「俺らも頑張ろーぜ。お前も、今度はメロンの味が好きな娘探しなって」

「…そうだな。」


それは単に俺を気遣った言葉だったのかもしれないが、俺には「ヨリを戻すな」と言われたようでもあった。

胃の辺りがムカムカする。昼飯をあまり食べてないからかもしれない。
そう思い聡の方をちらりと見れば、聡は「あ、」と声を上げて顎をくいっと何かに向けた。


「あの子いーんじゃね?お前の好みだろ」


最初に目に入ったのは肩の辺りでサラサラと揺れる髪。


「美人だな」


驚くように言った佑は、身を乗り出してよく見ようとした。


「あれ、ちょっと元カノさんに似てない?」



…違う。似てる、なんかじゃない。



それは、自慢の長い髪をバッサリと切ったアイツだった。






めろん。
(僕らはもう)(元には戻れないのかもしれない)




ー…



名前考えろよ。

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