短い話

□ん
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友達の彼女に恋をした。

一目惚れみたいなもので、俺が恋に落ちたときはすでに彼女は友達のもので。だから別段アタックとかしたわけでもなく、ただ、たまに見かけたらそれだけで嬉しくて(小学生か…俺は)。彼女が幸せなら別に俺は、なんてクサいことも考えたりした。


友達と彼女が別れた。


正直チャンスだと思った。なんだかんだ言ってこれっぽっちも諦めてなんかないことに気付いた。俺ならあいつみたいに彼女を泣かせたりなんかしない。


思い切って話しかけてみた。


俺があいつの友達だとは言わなかった。我ながら必死に話しかけていたと思う。



「あ、なんか飲む?」

「えーっと…じゃあ…メロンソーダ」

「え?」


聞き間違いだと思った。だって彼女はメロン味のものが嫌いだとアイツがいつもやたらと言っていたから。


「…メロン、好きなの?」

「……なんで?」

「あ、いや、俺の友達になんでもメロン味のもの食ってるやつがいる…か、ら」



彼女はなにかを考えこみ始めた。多分…いや、絶対アイツのこと。



「…アイツのこと、まだ好きなの?」

「……え」



いつもそうだ。口に出してから後悔する。
こんなことを聞いてどうするんだ、俺は。落ち込みたいのか、それともーー…。



「…わたしの……元、カレ、知ってるの?」

「あ、…や、まぁ、うん」

「…もしかして、さっき言ってた友達って…」

「……あー…うん」



そっか、と彼女が殆どため息に近い声を出した。それから暫くは2人とも無言で、俺はただメロンソーダの綺麗な緑色に泡が溶ける様をぼーっと見ていた。



「…わたし、メロンの香料っていうか…、ほら、メロン味の飴とかってそーゆーの入ってるでしょ?あれが好きじゃなくて、」

「…うん」

「でも彼がそーゆーの好きで、なんていうか、別れたのってそのせいなのかな、とか思ったりして、じゃあわたしがメロン味のもの好きになればもしかして…なんて」

「…うん」

「諦めなきゃいけないのは分かってる…つもり、なんだけど」



急になに話してるんだろ、私。なんて切なそうに笑う彼女の細い腕を誰かが掴んだ。



「……あ、」

「…お前、なんで」

「………」



それは、紛れもなく俺の友達で、そして彼女の元カレでもあるヤツで。

俺も、彼女も、そしてなぜか腕を掴んだ本人さえも驚いていて。

それからソイツはちらりとも俺を見ずに彼女の腕を引いてどこかへ歩き去った。

俺は何も言えずに、まばたきすら出来ずにただ呆然と、消えていく2人の背中を見ていた。





「…マジかよ」



ざわつく周囲の声の中に無意識に放たれた俺の言葉は吸い込まれる。







めろん。
(しゅわしゅわと溶ける泡が)(霞んで見えた)





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