短い話

□さくらいろ
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「…あの、良かったら、第2ボタン…」

「ごめん、俺好きな人いるから」



そう、ですよね。なんて言って走り去って行く後輩。でも今の俺の視界に映っているのは後輩ではなくて。当然前から走ってくる女子も映ってなくて、

「あ、爽太第2ボタン残ってるーっ!!もーらいっ!!」

ブチブチブチィィィ←ボタンをむしり取った音

「ば…馬鹿っ、返せっ」

「え〜、なんで〜」

「いいからホラ、返せよっ」

ぶー、なんて言いながら俺の手のひらに戻されたボタン。

ふー…やれやれ、なんて溜め息をつきながら視線を戻す。


「…あれ、笹森は?」


笹森と仲の良い女子に聞くと、「あー、今イケメンの後輩に呼ばれてー…」と言ってから、しまったというような顔をした。

「どこ」

「え、でも…」

「いいから言えっ!!」

「…多分、校舎裏…」

「…くそっ!!」



気付くと俺の足はもう走り出していた。




それから数分後、俺は見たくないものを見てしまう


何かを渡す男子生徒とそれを嬉しそうに受け取る笹森。

「嘘、だろ…」

「何が嘘なの?」

突如隣から聞こえてきた声。それは紛れもなく…
「笹、森っ!!」

「覗き見とは趣味が悪いわね」

「え、いや、笹森、さっきまで向こうにいなかったか!?」

「そんなことより、何が嘘なの?」

「いや、別に、その、
…そんなことよりよ、笹森、今、その、」

「なに?」

「その、あの、今の…
…ラブレター?」




少し時間をおいて笹森は「……は?」と言った。



「いや、だから、そのー…、」


笹森の左手に握られている白い封筒にチラチラと視線を注ぐと、笹森は何かに気付いて急に笑い出す。


「なんで笑…」

笹森は俺の言葉を遮って「はい、これ」といい封筒を目の前に差し出した。


「読んでいいよ?」

「なっ…でも」

「いいからっ」


カサカサと封筒を開け中から白い紙を取り出す。

「マジで読むぞ?」と言うと笹森は薄く笑いながらこくりと頷いた。

手の汗をズボンで拭ってから紙を開くと、一番最初に目に飛び込んできたのは「笹森先輩 卒業おめでとう!!」の文字で、その文字を中心に放射状に文字が書かれている。

「よせ、がき?」

「そ、よせがき。
あんまり嬉しかったからついつい後輩の頭、ぐりぐりーってやっちゃって」と言って笑う。


「よ…良かった…」


「良かった?」


何が、と聞かれる前にわたわたと話題を探し、やっと出てきた声が、「ホワイトデーさ、」だった

「…ん?」

「会えないじゃん?」

「あー、うん」

「だから、会うかっ!!」

「…うん?」

「じゃあ、14日に駅の前の喫茶店で待ち合わせな」

「…は?」

「絶対手作りのお返し持ってこいよ?
逃げるの無しだかんな」

「あの、ちょ…」

「あ、もしかしてなんか用事ある?」

「…いや、別に」

「じゃ、決定だ。
時間とか連絡したいからメアド送れ」

「別に今決めればいーじゃん」

「いや、駄目だ。
…いいから早く教えろよ」

「なんで今じゃ駄目なのよ」

「だって俺が笹森のメアド知りたいんだもん」

「…ほぅ?」





(笹森さ、その「ほぅ」って口癖なの?)(え、ほぅ?)((無意識、なのか))




ー…

卒業させる気はあんま無かったんですけどねー…
ま、とりあえずおめでとー




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