ぶっく2

□薄紅色と父
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「あぁ、今年も綺麗に咲いているなぁ」


 嬉しそうに目を細めながら父が言う。
 私の家の庭には綺麗な桜の木がある。私と同じ年齢のその桜は立派に育ち、毎年春になると綺麗な薄紅色の花をつけている。

 父は花が好きだ。その中でも特に桜が好きで、元気な頃には『桜を見てくる』と書き置きを一枚だけ置いて、ふらりといなくなったかと思うと10日ほど帰ってこなかったこともある。
 そんな父も今や病にかかり起きあがることすらままならなくなっているのだ。本当に、人生は何が起こるか分からない。


 ざっと風が吹き荒れて薄紅色のそれが雪のように舞い散る。そのうちのいくつかはこちらに入ってきていて、緑の畳にぽつぽつと綺麗な模様ができた。


「綺麗、だなぁ…」


 再びぽつりと父が呟く。声が震えているように聞こえたのは、きっと気のせいではないだろう。


「私は、桜はあまり好きではないです」

「どうして?」


 いつもの穏やかな父の声。震えてなどいない。やっぱりさっきのは気のせいだったのだろうか。


「だって、確かに綺麗ですけど、すぐに散ってしまいます」


 昔と比べてずいぶん白く、細くなった父の指が、私の頭に伸びる。再び視界に入った父の指には、花びらが一枚。


「しかし、散り際も綺麗だろう?」


 そう言って私の頭を二度、ぽんぽんと叩いた父の手は、昔と変わらず大きくて、優しかった。







薄紅色と父
(優しくて、切なくて、)(泣きそうになる)

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