ぶっく2
□白い
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突然ふらっと目眩がしたかと思うと、次にはもう頬に冷たいものがあたっていた。
なんだろう、と思った。
世界が回転したのか、とも思った。
それから霞みがかった視界の中で、あぁ、わたし死ぬのかと思った。
こぽこぽという音で目が覚める。
無機質な白い壁が目に入って、ここはどこだろうと思いを巡らす。
カーテン…白いシーツ…柔らかいベッド…――保健室?
さっきのこぽこぽという音はコーヒーを入れる音か、もしくは水槽の音か。
ぼやっとする頭でそんなことを考えていたとき、シャッという音とともに見たことのある顔が覗いた。
「気がついた?」
保健の先生だ。
「はい、えっと、わたし、」
「廊下を歩いてる時に急に倒れたんだよ。大丈夫?どっか痛いとことかない?」
「大丈夫です」
先生の言うところによると、どうやらわたしは貧血らしい……貧血ってこんな感じなのか、とぼんやり考えながら、意識は睡魔に引っ張られていた。
「――…ん、山下さん、」
次に目覚めたとき、誰かがわたしの名前を呼んでいた。保健の先生のそれではない、もっと、なんて言うか、男子生徒みたいな……。
不思議に思って声のするほうへ向いて目を開ける。
「ぅ…あー…え?小島くん?」
よ、と言いながら窓から顔を出してにこにこと笑っている小島くん。
「え、てゆーか…え?なんでそんなとこに?」
「あぁ、いま体育中」
見れば、小島くんの肩の向こう側では青いハーフパンツに白い半袖の男子たちが野球だかソフトボールだか何かをやっていた。
「やって来なくていいの?」と声をかけようとしたときに、グランドから声が聞こえた。
「おい小島ーっ!!お前次バッターだぞっ!!」
「おー、いま行くー」
軽く手を上げてそう応えた小島くんはまたわたしに向き直っていった。
「俺、まじすげーの打ってくるから」
「あ、うん。頑張って」
「…だからさ、」
「うん」
「もしホントに打てたら俺と付き合って下さい……てかそーゆーのちょっと考えてみて欲しいっていうか」
白い背中が遠ざかる。
白い部屋の白いベッドで横になる私の顔は、
なんか、赤い、かも。
(竹中ーっ!!かるーく投げてくれっ!!)
(なめんな馬鹿)
(うぉぁっ!!はえーよっ!!)
(カキーンっ!!)
(あ、すごい)
ー…
保健の先生は男か女か…