ぶっく3

□月が綺麗ですね
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 本日晴天。台風が過ぎ去ったばかりのおかげなのか、雲一つ無い。なんてタイミングがいいのだろう。外は明るい。



 アパートのベランダから外を照らすその光源へと目を向けた。昼間の太陽とは対照的にいつもは控えめに輝くそれも今日は眩しい程の光で夜を照らす。──あぁ、本当に、本当に綺麗だ。

 右手に持ったスマートフォンはメール作成画面で止まっている。文面は既に打ち込んであった。あとはこれを送信するだけ、なのだが。

 はあぁと長い息を吐く。やっぱり止めようか。世間話にしても不自然すぎる突然のメール。普段事務的なものしか送りあったことがないだけあって、やはりここはどうしても慎重になってしまうわけで。

 何度目かの見返しを終えてやっとのことで送信ボタンへと震える指を伸ばした。夜風に当たっているせいかはたまた緊張のためか、やけに手先が冷えている気がする。

 送信ボタンを押せたのはそれからまた数分間の葛藤を終えてからだった。送信完了の文字を見ると同時になんだか力が抜けた。──わたしは送った。送ってしまった。彼に、あの言葉を。




 本日晴天。中秋の名月なり。しかも満月ときた。月は宝石のように輝いている。そーゆー意味でも大丈夫。




 夏目漱石の逸話はわりと有名である…が、彼が知っているとは限らない。いや、きっと彼は知っているだろうけど、知らないフリも気付かなかったフリもできる。それでいい。それでいいのだこの恋は。そのほうが好都合だ。



 震える携帯に連動するようにわたしの肩はびくりと揺れた。返信が来てしまった。どうしよう。思ったよりもずっと早い。手すりにしがみついてのろのろと立ち上がりながら体制を立て直しつつあったわたしは、彼の返信に再び悩まされることになるのだ。







月が綺麗ですね。
──丁度僕も月を眺めながらそう思っていたところですよ。





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