ぶっく3
□例えるならそれは、
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「あ、お久しぶりです!」
バイトからの帰り道、信号待ちをしているときにたまたま会ったのは、中本だった。
「おー、久しぶりバイト帰り?」
「はい!先輩もバイト帰りですか?」
そーだよ、と答えると中本はえへへと笑いながらお疲れ様ですと返した。
「急に降ってきましたねー」
青色の電灯を確認してから俺は歩き出す。中本もそんな俺にひょこひょこと着いてくるように歩みを進めた。
「積もりそうで嫌だわ」
傘に積もるそれをいくらかふるい落としながらそう言う俺に、中本はまたえへへと笑う。
「でも雪だるま作れますよー」
「さすがにこの歳で雪だるまはないわー」
「えー?」
普段女子とはあまり会話を交わす機会がないが、中本と話すのは楽だった。
彼女は独特の、どこか間延びしたような気の抜けた調子で続ける。
「子ども心を忘れるのは良くないですよ?」
「じゃあ中本作ってこいよ。俺ここで見ててやるから」
「寒いので嫌ですー」
なんじゃそりゃ。
少し重くなってきた傘をもう一度ゆさゆさと振るのと同時くらいに、中本が「あ、」と声をあげた。
ん?と思いながら彼女の目線の先をたどれば、そこにあるのはクリスマスに向けて飾り付けられたイルミネーションで。そういえば毎年ここは少し華やかになるっけ、と思い出す。
「すっかりクリスマスムードだな」
苦々しげに呟いた俺とは反対に中本は嬉しそうに声をあげた。
「綺麗ですね!」
走ると転ぶぞ、なんて俺の忠告も聞かずに走り出した彼女は、えへへと楽しそうに綺麗に飾り付けられた木々の間をくるくると歩きまわってからこちらへ向く。
「先輩!」
「ん?」
「すっごく綺麗ですね!」
彼女があまりにも嬉しそうに言うから、おれもつい笑ってしまった。
「そうだな!」
例えるならそれは、
(微糖のホットコーヒーみたいに)(じんわりと甘くて暖かい)
━━━・・・
さっみぃです。