ぶっく3

□哀方
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「歯を食い縛ると身体にものすごく負担がかかるらしいですよ」



そう言った前の相方の言葉を思い出して奥歯をそっと浮かせた。頭が重い。胃がキリキリと痛む。書類にサラサラと文字を書き込む手をぼんやりと見ながら、段々と口数が少なくなってきたなぁと思う。



食べかけのまま一晩出しっぱなしにして冷たくなってしまったご飯。自分はわりと問題なく食べることが出来るしまぁ別にいいかなと思うけれど、他人に薦められるものじゃない。食べると何となく侘しい気持ちになってしまうそれは、一緒にいる人を沈んだ気持ちにさせてしまう自分とそっくりだった。初対面の時よりも目に見えて口数が少なくなったその人は、それでも場を明るくしようとしてか、ポツポツと話題を振ってくれる。こちらも一言二言言葉を返すけれどやはり長くは続かず、その人はまたすぐに私から目線を外して少したれ目がちなその目を書類に戻した。



あーあ。やっぱり今回も上手くいかなかったなぁ。私もその人から視線を逸らして、ぼんやりとした頭のままぼうっと周囲を見渡した。陰鬱な人間というものは時としてその逆をいく人間と同じか、それ以上に周囲に影響を及ぼしてしまうものなのだ。自分が変わらなければいけないと分かってはいてもいつからか身体に染み込んだこの黒くて重たいどろどろしたものはなかなか消えてなくならず、それどころか無限に湧いて出てくるようだった。



今度の相手はわりと気に入っていた。今までみたいに大きな不安もストレスもないはずだった。それなのに私の頭は依然として重たくて胃の調子も悪くて、何だか上手くいかない。


とても好い人なのだ。周囲から忌み嫌われるこんな自分にも嫌な顔をせず話しかけてくれる優しい人だ。だからやっぱり大切にしたいのだけれど、「他の人と組んだ方がきっと楽しいですよ」なんて言葉は相手を拒絶する言葉だと分かっているから決して口には出せなかった。


あぁ、やっぱり、どうやっても上手くいかないなと思う。どうしたらいいんだろう。一段と重たくなった私に、その人はまた何かを話しかけようとしていた。




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